老年精神医学雑誌 Vol.29-6
論文名 総論:非典型例の4大認知症;posterior cortical atrophy(PCA)
著者名 石渡明子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(6):581-587,2018
抄録 非典型例の4大認知症として,アルツハイマー型認知症(AD)とレビー小体型認知症が原因のposterior cortical atrophy(PCA)について解説した.PCAは比較的若年発症で,大脳後方の萎縮を伴い,視空間機能の障害を主徴とした変性疾患の総称である.その多くはADを病理学的な背景とすることが明らかとなったが,症候,形態,病変の分布において,典型的なADとは異なった病態である.
キーワード posterior cortical atrophy (PCA),アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,視覚性失認,失読
↑一覧へ
論文名 言語障害を中核症状とする認知症の臨床
著者名 松田 実
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(6):588-592,2018
抄録 認知症であれば言語の障害は普遍的にみられる症状であることを踏まえ,基本的な言語症状とその責任病巣について概説した.そのうえで言語症状を主症状とする認知症の臨床型,具体的には左半球優位型アルツハイマー病や左半球優位型前頭側頭型認知症,および進行性失語の3類型について解説した.認知症臨床において言語症状を正しく把握することの意義を強調し,病型の同定よりも個々の言語症状の把握が治療やケアに最も役立つことを述べた.
キーワード 認知症,言語障害,進行性失語,治療とケア
↑一覧へ
論文名 嗜銀顆粒病と神経原線維変化型老年期認知症の病理と臨床;PARTとSNAPの概念を含めて
著者名 横田 修,三木知子,池田智香子,長尾茂人,竹之下慎太郎,原口 俊,石津秀樹,黒田重利,寺田整司,山田了士
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(6):593-602,2018
抄録 嗜銀顆粒病(AGD)では4リピートタウ陽性の嗜銀顆粒が扁桃核周辺から側頭・前頭葉皮質に進展する.神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)は海馬から隣接する側頭葉皮質に神経原線維変化が大量に出現しAβ沈着をほとんど欠く.ともに高齢者の認知機能低下の原因となる病態である.SD-NFTの病態に関連するprimary age-related tauopathy(PART)の概念と,AGD,SD-NFT,PARTに関係するsuspected non-Alzheimer’s disease pathophysiology(SNAP)の概念もあわせて解説した.
キーワード アミロイドβ,primary age-related tauopathy,senile dementia of the neurofibrillary tangle type,嗜銀顆粒,神経原線維変化,suspected non-Alzheimer’s disease pathophysiology
↑一覧へ
論文名 大脳皮質基底核変性症(CBD)/進行性核上性麻痺(PSP)の臨床
著者名 藤岡伸助,坪井義夫,饗場郁子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(6):603-612,2018
抄録 大脳皮質基底核変性症,進行性核上性麻痺はタウオパチーに分類される疾患であり,両者ともに多彩な臨床症状を呈する.現時点で確定診断のためのツールはなく,有効な治療法も確立していない.しかし臨床診断基準が改訂され,タウイメージングなどの診断バイオマーカーの研究が進み,また疾患修飾療法が臨床応用される日もそれほど遠くない.それまでにより精度の高い臨床診断ツールを確立しておく必要がある.
キーワード タウオパチー,MAPT,タウイメージング,診断基準,抗タウ抗体
↑一覧へ
論文名 特発性正常圧水頭症,シャント手術効果予測の現状と問題点;診療ガイドライン第2版以降の研究報告について
著者名 文堂昌彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(6):613-621,2018
抄録 特発性正常圧水頭症(iNPH)では髄液シャント手術が唯一の治療法である.シャント手術により長期的に症状の改善効果が得られるように,術前の手術効果予測は重要である.シャント手術適応の基準は『特発性正常圧水頭症診療ガイドライン』の初版では髄液タップテストで陽性な場合,第2版ではMRI上の特徴的な所見(disproportionately enlarged subarachnoid space hydrocephalus〈DESH〉)と少なくとも歩行障害がある症例が手術適応と記載されている.第2版出版以降,それぞれの手術適応基準による手術効果予測精度の検証,精度向上のための工夫や,シャント手術の効果予測に影響を与える要因としてアルツハイマー病理の合併や罹病期間などについての検討が報告されている.ところで,近年,glymphatic pathwayや硬膜リンパ管の研究によって髄液産生吸収メカニズムの概念が修正されつつある.一方で,iNPHの治療について症例対照研究が乏しいこと,手術効果判断のための客観的な基準が確立されていないことなどの問題が改めて提起されており,今後iNPHの成因やシャント手術の効果について,研究方針の再検討や新しい展開が期待される.
キーワード 特発性正常圧水頭症,DESH,タップテスト,髄液産生吸収メカニズム,併存疾患
↑一覧へ
論文名 <その他のtreatable dementia>
神経感染症(脳炎)による認知症の臨床
著者名 古和久朋
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(6):622-627,2018
抄録 認知症を引き起こす神経感染症ならびに脳炎について概説した.ヘルペス脳炎や自己免疫性介在性脳炎・脳症は急性〜亜急性の経過を示し,若年にも発症する.結核性髄膜炎やクリプトコッカス髄膜炎,神経梅毒ではいずれも進行が亜急性〜慢性で,発熱や髄膜刺激徴候が疑うきっかけとなる.クロイツフェルト・ヤコブ病では速い経過で寝たきり状態となることが特徴である.各疾患ごとに特異的検査が存在するので,それぞれの疾患を疑った場合には速やかに検査依頼を行うことが肝要である.
キーワード 髄膜脳炎,自己免疫性介在性脳炎・脳症,髄液検査,自己抗体
↑一覧へ
論文名 <その他のtreatable dementia>
内科的疾患による認知機能障害;甲状腺機能異常,ウェルニッケ・コルサコフ症候群,肝性脳症,膠原病
著者名 廣西昌也
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(6):628-634,2018
抄録 認知症診療において“treatable dementia”という視点をもつことにより,鑑別診断や疾患の早期発見が容易となる.甲状腺機能低下症は高齢者に多く,認知症の鑑別診断として最も重要であり,特徴的な症状を見逃さないようにすべきである.ウェルニッケ脳症およびコルサコフ症候群を疑った場合には早期に十分なビタミンB1の補充を行う.肝性脳症や膠原病においても認知機能への影響が指摘されており,経過中に注意が必要である.
キーワード 認知症,treatable dementia,甲状腺機能低下症,ウェルニッケ脳症,肝性脳症,膠原病
↑一覧へ