老年精神医学雑誌 Vol.29-5
論文名 アルツハイマー病超早期診断がもたらす課題;アミロイドPET検査の結果開示を題材として
著者名 繁田雅弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(5):473-478,2018
抄録 アミロイドタンパクやタウタンパクの病理を検出するアミロイドPET検査や髄液検査を用いることで,アルツハイマー病(AD)/アルツハイマー型認知症(ATD)の診断の精度を大幅に高めることができる.軽度認知障害(MCI)やpreclinicalの段階でさえアミロイドの存在を知ることができる.しかし陽性だからといってADと断言できるわけではなく,その後の顕在発症の時期や進行のスピードを予測できるわけではない.こうした深刻さと不確実さを併せ持つ医療情報の取り扱いについてアミロイドPET検査の結果開示を題材として論じた.
キーワード タウオパチー,軽度認知障害(MCI),アルツハイマー型認知症,告知,開示
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論文名 アルツハイマー病の顕在発症前診断;専門医のもつべき視点と診療姿勢
著者名 吉澤浩志
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(5):479-485,2018
抄録 アミロイドPETの適性使用症例は,臨床症状が非定型的であるアルツハイマー病(AD)疑診例と,若年発症の認知症症例であり,正常認知機能のレベルの前臨床期アルツハイマー病(preclinical AD)や軽度認知障害(MCI)は研究目的に限られる.疾患修飾薬のない現時点で,認知症専門医には,検査を適性に使用することと,その結果を適切に判断することが求められている.
キーワード 認知症,アルツハイマー病,超早期診断,アミロイドPET,神経心理検査
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論文名 顕在発症前診断時代のもの忘れ外来受診者とは
著者名 小林啓之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(5):486-492,2018
抄録 もの忘れ外来等を受診する患者のなかには,従来の客観的な認知機能検査などでは明らかな低下を認めないものの,自覚的な認知機能低下を訴える一群が存在する.このような主観的認知機能低下(SCD)群は将来軽度認知障害や認知症を発症する一定のリスクを有していると考えられ,一方で身体疾患やフレイルによって症状が修飾されることも多く,自発的に受診するケースが多いことから早期介入の対象として注目されている.
キーワード 主観的認知機能低下,もの忘れ外来,SCD,病識,援助希求
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論文名 自分が認知症か不安になる人々に対する医療ニーズ;その到来の歴史を振り返って
著者名 中島紀惠子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(5):493-499,2018
抄録 だれもが自分が認知症になるかもしれない不安を抱えていると思うが,すぐに軽度認知障害(MCI)といわれる大勢の人の生きるパワーが垣間見える時代がやってくる.ゆえにこそ,約40年前のわが国の文化の古層に隠されてきた認知症の人と家族の苦悩の所在と実態を振り返り,「家族の会」や若年認知症当事者が普通の生活を取り戻すために求めてきたプロセスを知ること,認知症を治すこと,回復することの意味を考え論じた.また,若年・老年を問わず猛スピードで増加するMCIの人々の医療・福祉ニーズの空白を埋め,かつ,長期間の個別継続的関わりによる自立支援のあり方として,自律した専門スタッフの配置の仕組みと支える組織チームのあり方や急性期病院に入院した認知症当事者に向き合う視点などについて考えた.
キーワード 認知症当事者,介護家族,認知症ケア,MCI,医療・福祉ニーズ
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論文名 認知症の超早期診断の不確実性に伴うリスクと可能性
著者名 神戸泰紀
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(5):500-504,2018
抄録 "・診断をその人の神経病理の推定とすると,診断の不確実性はとくに病初期であるほど顕著になる.
・早期診断は診断後支援を抜きになされるべきではない.
・診断の不確実性ゆえに,診断の表現は多様性を許容するものとなる.
・不確実性を存分に利用する,つまり自然科学的に許容される範囲内で,また表現の多様性を活用して,その人のその後の暮らしに貢献する診断の可能性について,本稿では言及した."
キーワード 診断,不確実性,診断後支援
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論文名 認知症病前診断時代の医療;医療人類学の視点から
著者名 北中淳子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(5):505-511,2018
抄録 「老いの医療化」が急速に進む日本においては,認知症の予防・早期発見の動きがさまざまな恩恵をもたらす一方で,認知症診断が「呪い」として作用するケースもみられる.その背景には,@診断をめぐる科学的不確実性,A「予防」言説による階層化・「健康な老い」への強迫観念:家族の政治学,B認知主義的人間観の台頭がある.人類学的フィールドワークに基づく分析と,2018年に慶應義塾大学で開催したシンポジウムでの議論を紹介し,当事者視点と医師の「自省性」を活かした臨床構築の可能性を探る.
キーワード 認知症,予防,早期発見,呪い,医療人類学
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論文名 〈特別寄稿〉MCIのとき将来認知症になるとわかったらどういう医療を望むか
著者名 高橋幸男
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(5):512-517,2018
抄録 認知症は一人で解決できるものではない.人と人とのつながりが希薄になっている現代において,将来認知症になるとしたら,ことのほか友人や家族など周囲の人とのつながりが大切である.そうしたつながりを大切にするなかで,スティグマをもつ“特殊な病”である認知症をいかに平穏に受け入れてともに暮らしていくかは,認知症になっていく自分にとっても周囲の者にとっても大切な課題になる.認知症になっても幸せな人生が送られることを支援する医療が望まれる.
キーワード 認知症医療,MCI,空白の時期,カウンセリング,認知症専門カウンセラー
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論文名 〈特別寄稿〉認知症の臨床診断名が意味するものとは
著者名 木之下徹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,29(5):518-524,2018
抄録 認知症診断にはtypological(類型分類的)なものと,nosological(疾病分類的)なものがある,という視点がある.両者の違いは大きく,また同じ人の同じ状態に対しても,複数の専門医が診断したときに,現時点では原理的に同じ診断結果にならない場合がある.本稿では, MCI(軽度認知障害)の歴史をたどり,認知症診断の構造と今日的な課題について論考する.
キーワード MCI(mild cognitive impairment,軽度認知障害),DSM-5,typological, nosological,認知症診断
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