論文名 | 発達障害と認知症 |
著者名 | 渡辺 憲,竹内亜理子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,29(1):11-19,2018 |
抄録 | 発達障害と認知症の病因,病態上の関連について,多面的に検討を行った.自閉症スペクトラム障害と前頭側頭型認知症には,障害される神経ネットワークの局在が近似していることから,症候学的に多くの類似点が認められ,注意欠如・多動性障害とレビー小体型認知症との関係については,両者に共通してドーパミン神経系の脆弱性が深く関与していると推察された.幼少期に発症する発達障害と,数十年間のブラックボックスを経過して発症する初老期・老年期の認知症との関係性について4つの類型を提案し,発症の原因ならびに促進因子について考察した.発達障害を基盤として認知症を発症した場合,行動・心理症状(BPSD)により強い影響を与えると推察される. |
キーワード | 自閉症スペクトラム障害,注意欠如・多動性障害,前頭側頭型認知症,レビー小体型認知症,偽性認知症,偽性偽性認知症 |
論文名 | うつ病と認知症との関連;リスクか部分症状か |
著者名 | 馬場 元 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,29(1):20-28,2018 |
抄録 | うつ病と認知症に関連性があることは多くの疫学的調査の結果からも明らかであるが,うつ病が認知症の狭義の危険因子なのか,それとも認知症の前駆症状ないし部分症状なのかというディベートがしばしば展開されている.両疾患を結ぶ生物学的背景はいまだに明らかになってはいないが,これまでの研究結果はそのどちらの可能性も示唆しており,うつ病は認知症の危険因子でもあり,かつ一部のうつ病は認知症の前駆症状でもあると考えられる. |
キーワード | うつ病(depression),認知症(dementia),アルツハイマー病(Alzheimer's disease),危険因子(risk factor),前駆(prodromal) |
論文名 | 双極性障害の認知症発症リスク |
著者名 | 齋藤篤之,多田光宏,仁王進太郎 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,29(1):29-34,2018 |
抄録 | 二大精神病の考え方に反し,実際のところ双極性障害には認知障害が合併しやすいようだ.しかし認知症の発症リスクについての研究はいまだ少ない.双極性障害は統合失調症や単極性うつ病よりも認知症を発症しやすい可能性があり,それを裏づける研究は少しずつ増えてきている.また,リチウムの投与は認知症発症を抑制するかもしれない.また,双極性障害と前頭側頭型認知症には何らかの関係があるのかもしれない. |
キーワード | bipolar disorder,cognitive impairment,dementia,deficit status,frontotemporal dementia,lithium |
論文名 | 統合失調症における認知症発症のリスク |
著者名 | 石井 敬,功刀 浩 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,29(1):35-40,2018 |
抄録 | 統合失調症の患者は認知症を発症しにくいという意見がある一方,高齢化すると認知症類似の病像を示すという意見もある.認知機能障害は統合失調症の主要な徴候のひとつでもあるが,障害プロフィールは患者によって多様であり,その経過もアルツハイマー病(AD)のように確実に進行するのとは異なる.疫学的研究によって,統合失調症の罹患はのちの認知症発症のリスクを2.3〜16.25倍上昇させることが報告されている.一方,統合失調症死後脳の病理学的研究や,リスク遺伝子(APOE),脳脊髄液中のタウやアミロイドβに関する検討では,少なくともADのリスクを高める可能性を支持する所見は得られていない.このように,疫学的研究結果と生物学的研究結果とは乖離しているように思われ,その理由は不明である.統合失調症患者は循環器疾患による死亡率が高く,平均寿命が健常人より20%程度短いことが指摘されており,認知症の最も強いリスク因子である加齢の程度が低いことが,統合失調症の患者は認知症を発症しにくいという臨床的印象の根拠のひとつになっている可能性がある.本テーマについて明らかにするためには,高齢化した統合失調症患者についての検討を多数積み重ねていく必要があるだろう. |
キーワード | 認知機能障害,アルツハイマー病,リスク,疫学的研究,生物学的研究 |
論文名 | 強迫症および関連症群と認知症 |
著者名 | 中前 貴,松岡照之 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,29(1):41-46,2018 |
抄録 | 強迫症(OCD)は,物事への執着や繰り返し行動が,一部の認知症でみられるこだわりや常同的行動と共通する.OCDは30歳までに発症し,洗浄または確認の症状が多く,病識が保たれていることが多いが,前頭側頭葉変性症などの変性疾患の場合,ためこみの症状が30〜40歳以降に発症し,病識に欠けることが多い.現時点ではOCDが認知症の発症リスクであるとはいえないが,遅発性のOCDについては認知症の前駆症状や危険因子である可能性が考えられる. |
キーワード | 強迫症,強迫性障害,認知症,前頭側頭葉変性症,ためこみ症 |
論文名 | 老年期の不安症/不安障害をどうとらえるか |
著者名 | 稲村圭亮 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,29(1):47-55,2018 |
抄録 | 高齢者における不安症/不安障害は,背景に若年者とは異なる基盤が存在し,また症候学的にも異なるため,その評価や疾患群の抽出が困難であるとされていた.高齢者の不安に対する介入の前提として,高齢者特有の社会-心理-生物学的基盤の十分な理解が必要となる.本稿では高齢者の不安症/不安障害の疫学・病因・診断を含めた包括的な知見を概説したうえで,さらに認知機能障害との関連や認知症患者における不安について述べた. |
キーワード | 高齢者,老年期,不安,不安症,不安障害 |
論文名 | 高齢発症てんかんと認知症の鑑別と合併 |
著者名 | 渡辺裕貴,平良直樹,渡辺雅子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,29(1):56-62,2018 |
抄録 | てんかんの発病率は60歳前後からしだいに増加していく.高齢者のてんかん発作はけいれんを伴わない意識変容のかたちをとることも多いため,認知症と誤認されることがある.てんかん性の記憶障害は,発作時のみならず発作間歇時にも生じる.認知症患者はてんかんの合併も多いため,てんかんと認知症は排他的鑑別診断を行うのではなく,合併の可能性も考えなければならない.高齢者のてんかんを正確に診断するためには,スマートフォンを含めた家庭におけるビデオ撮影を考えるのが望ましい. |
キーワード | 高齢発病てんかん,てんかん性健忘,認知症,脳血管障害,REM睡眠行動障害 |