老年精神医学雑誌 Vol.28-7
論文名 アルツハイマー病の発症にかかわる因子とその治療の可能性
著者名 齊藤 聡,猪原匡史
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):703-707,2017
抄録 高齢者のアルツハイマー病は加齢や環境因子などの影響が大きい.近年,血圧コントロールや食事指導,認知機能訓練を併用する多因子介入が認知症予防に有用であることが示された.神経変性のみを標的とした治療には限界があり,血管病変へのアプローチも必要である.患者をライフスタイルや環境要因に基づいてサブグループ化し,最適な医療を提供するPrecision Medicineが有用であると考えられる.
キーワード アルツハイマー病,脳血管障害,精密医療,危険因子,シロスタゾール
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論文名 血管性認知症の発症・進行予防,治療反応性
著者名 山ア貴史
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):708-714,2017
抄録 血管性認知症(VaD)では,臨床経過,臨床像,画像診断や病理所見を包括して多様な病態を理解することが重要である.とくに高齢認知症患者では血管障害の病理に他の変性疾患の病態を併存する,いわゆる「複合病理に基づく認知症」の存在が明らかとされている.脳血管障害の予防や再発防止は,認知症の発症や進行を抑制するうえできわめて有効な方策とみなすことができる.
キーワード 血管性認知症(VaD),脳血管障害を伴うアルツハイマー病(AD with CVD),AD病理を伴うVaD,複合病理に基づく認知症
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論文名 レビー小体型認知症の疫学,予後および治療
著者名 小田陽彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):715-720,2017
抄録 レビー小体型認知症(DLB)の疫学調査結果をレビューし,臨床診断における有病率と病理診断における有病率の格差を指摘し,早期正確診断のむずかしさを明らかにした.次いで診断の手がかりとなりうる発症危険因子をまとめた.さらに,DLBとアルツハイマー型認知症の予後を比較した.最後に,現時点におけるレビー小体病に係る抗認知症薬のエビデンスを列挙した.DLBの診断が正しくなされているかどうかが予後に関与する最も重要な因子であると考えられる.
キーワード レビー小体型認知症,疫学調査,危険因子,予後,認知症を伴うパーキンソン病
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論文名 前頭側頭葉変性症のリスクファクター
著者名 本田和揮,橋本 衛
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):721-729,2017
抄録 前頭側頭葉変性症は前方型認知症を代表する神経変性疾患であり,複数の神経病理からなり多様な臨床症状を呈する.最も確実なリスクファクターは遺伝子異常であり,これも多数の異常が確認されていて複雑であるが,大部分はMAPTGRNC9orf72のいずれかの異常である.遺伝子異常によりタウ,TDP-43などのタンパクが異常蓄積して発症するが,これらをターゲットとした治療法の開発が試みられている.ただし,欧米では遺伝による発症が多いがアジアでは少ないため,地域差を考慮したアプローチが必要である.
キーワード 前頭側頭葉変性症,タウ,TDP-43,MAPTGRNC9orf72,遺伝の地域差
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論文名 特発性正常圧水頭症の発症,病状進行,治療反応性にかかわる諸因子
著者名 松本拓也,數井裕光
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):730-735,2017
抄録 特発性正常圧水頭症(iNPH)はシャント術で症状が改善できる神経認知障害である.iNPHのリスク因子としては高血圧症,喫煙,虚血性心疾患,脂質異常症,糖尿病,肥満などが挙げられている.予後を規定する因子としては,シャント術を受けるときの症状の重症度や,アルツハイマー病(AD)病理の有無が知られている.リスク因子の減少,iNPHの前駆段階といわれているasymptomatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI(AVIM)の発見,および,この時点からの経過観察と適時のシャント術の施行がよい経過につながる.さらに,iNPH診療ガイドラインの周知および関係者間の連携も不可欠である.
キーワード 特発性正常圧水頭症,二次性正常圧水頭症,DESH,AVIM,シャント術,アルツハイマー病,脳脊髄液バイオマーカー
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論文名 進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,嗜銀顆粒病
著者名 寺田整司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):736-746,2017
抄録 進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,嗜銀顆粒病は,すべて4リピートタウオパチーに属する疾患である.近年,老年期精神障害との強い関連を示唆する報告も相次いでおり,精神科領域においても重要な疾患となりつつある.それぞれについて,現在までにわかっている危険因子などについて詳述した.
キーワード 進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,嗜銀顆粒病,タウオパチー,遺伝
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論文名 久山町研究からみた認知症の危険因子・防御因子
著者名 清原 裕
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):747-753,2017
抄録 福岡県久山町における認知症の疫学研究の成績では,認知症,とくにアルツハイマー病(AD)の有病率が人口の高齢化の速度を超えて時代とともに増加した.同町における追跡研究では,糖尿病と喫煙はADおよび血管性認知症(VaD)発症の危険因子であった.高血圧はVaDの発症リスクを上昇させたが,ADのリスクとは関連がなかった.一方,運動と野菜が豊富な日本食に牛乳・乳製品を加えた食事パターンは認知症のリスクを低減させた.
キーワード アルツハイマー病,血管性認知症,危険因子,防御因子,久山町研究
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論文名 アルツハイマー病の遺伝学的リスク
著者名 宮下哲典,原 範和,春日健作,菊地正隆,中谷明弘,池内 健
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(7):754-765,2017
抄録 アルツハイマー病(AD)は個々人の遺伝的素因を背景に環境要因が加わって潜行性に発症し,緩徐に不可逆的に進行する「ありふれた疾患」である.マイクロサテライトマーカーを用いた連鎖解析,ジーンチップによるゲノムワイド関連解析,次世代シーケンサーを駆使した全ゲノム・エクソン解析を通じて,家族性,および孤発性ADに関与する遺伝子がこれまでに続々と見いだされた.本稿では,これらの遺伝子について概説するとともに,遺伝子によるADの発症リスク予測の可能性について言及した.
キーワード アルツハイマー病,遺伝子,コモンバリアント,レアバリアント,APOE
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