老年精神医学雑誌 Vol.28-12
論文名 認知症に対する非薬物療法の現状と課題;BPSDの予防と治療を中心に
著者名 松田 修
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(12):1331-1334,2017
抄録 非薬物療法は,認知症治療のうち,薬物療法以外を含む広い概念であるが,その中心となるのは,本人の視点に立ったケア(例:パーソン・センタード・ケア),精神療法・心理社会的治療,リハビリテーションである.個のニーズや状況に応じた非薬物療法は,認知機能障害のサポートや認知症の行動・心理症状(BPSD)の治療において効果が期待されており,とくに,BPSD治療においては薬物療法に先立って行うべき優先度の高い治療法であると認識されている.しかし,効果研究に関するエビデンスは十分とはいえず,いかにしてエビデンスレベルの高い研究を行うかが課題となっている.
キーワード 非薬物療法,BPSD,チャレンジング行動,パーソン・センタード・ケア,認知機能障害のサポート
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論文名 認知症に対する心理的アプローチの重要性
著者名 加藤伸司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(12):1335-1341,2017
抄録 認知症の人に対する心理的アプローチは,心理学の分野や認知症ケアの現場でも重視されている.パーソン・センタード・ケアの考え方は,認知症ケアの現場に大きな影響を与え,認知症の当事者たちの発言も心理的支援の重要性を新たに認識させたといえるだろう.認知症の人に対する心理的アプローチでは,初期段階〜重度の段階に至るまでの各段階に合わせた不安や混乱の解消に視点をおいた支援が大切であり,疾患の特性に合わせた支援も重要である.
キーワード 重症度,疾患別アプローチ,BPSD,偏見
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論文名 心理的介入研究の妥当性の向上のために
著者名 南風原朝和
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(12):1342-1347,2017
抄録 介入の内容が明確な薬物療法に比べて,心理的介入には曖昧な要素が多く含まれ,その効果を評価することにも困難が伴う.本論文では,社会的・実践的な場において行われる心理的介入研究の妥当性を向上するために,研究の妥当性のタイプごとに,妥当性への脅威となる要因を明確にして,それに対応していくという方略について解説した.
キーワード 介入研究,効果研究,内的妥当性,構成概念妥当性,外的妥当性,妥当性への脅威
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論文名 認知症高齢者に対する回想法
著者名 黒川由紀子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(12):1348-1355,2017
抄録 認知症高齢者に対する回想法とライフレビューについて,概要,実施方法,エビデンスを論じた.回想法は高齢者向けに開発された非薬物療法である.認知症高齢者への回想法では五感に働きかける感覚刺激による導入,手続き記憶,意味記憶,エピソード記憶の活性化,情動体験の共有・共感が図られる.近年の研究報告のレビューから,気分・情緒面の維持向上,介護スタッフや家族に対する効果等に関するエビデンスを認めた.
キーワード 回想法,ライフレビュー,認知症高齢者,非薬物療法,心理療法
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論文名 認知症高齢者に対する認知活性化療法
著者名 山中克夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(12):1356-1360,2017
抄録 さまざまな課題やディスカッションを通じて全般的に認知機能を高めること,さらには対人交流を通じて社会機能を高めることを目的としたアプローチは,認知的働きかけと呼ばれている.認知活性化療法(CST)は軽度,中等度の認知症の人を対象とし,その標準版は大規模な無作為化比較試験でエビデンスが報告された認知的働きかけの代表的プログラムである.本稿ではその理念や構造,実際の活動内容,エビデンスについて解説した.
キーワード 認知的働きかけ(cognitive stimulation),認知活性化療法(cognitive stimulation therapy),パーソン・センタード・ケア,認知機能,QOL
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論文名 認知症高齢者に対するリアリティ・オリエンテーション
著者名 若松直樹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(12):1361-1367,2017
抄録 認知症高齢者に対するリアリティ・オリエンテーションは,現実見当識情報はじめ日常生活に有用な情報(領域特異的知識)の反復訓練である.訓練では学習対象以外の,誤った反応を引き出さないようにする誤り排除学習理論が重要である.しかし,こうした訓練の効果は学習対象とした情報に対してのみであり,汎化が起きにくい.その意味では,訓練のほか日常生活でも誤り反応を避け正しい情報を積極的に伝える対応が必要である.
キーワード リアリティ・オリエンテーション,領域特異的知識,誤り排除学習理論,顕在性記憶,潜在性記憶
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論文名 認知症高齢者の不適応行動に対する応用行動分析学的介入
著者名 宮 裕昭
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(12):1368-1373,2017
抄録 応用行動分析は学習理論を基礎とした行動変容支援技法であり,心理療法の一種である.応用行動分析では,認知症の行動・心理症状(BPSD)を含めた不適応行動の習慣化は認知症高齢者自身のみならず,彼らを取り巻く介護環境にもその要因があると考える.このため,実験的な行動研究から導かれた行動原理に即した環境統制を行うことで,不適応行動の改善を図ることを趣旨とする.本稿ではその理論と実践方法について,例を示しながら概説した.
キーワード 認知症,BPSD,不適応行動,応用行動分析,環境統制
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論文名 認知症高齢者に対する音楽療法
著者名 岩永 誠
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(12):1374-1379,2017
抄録 認知症高齢者に対する非薬物療法のひとつに音楽療法がある.音楽療法は認知症の行動・心理症状(BPSD)である抑うつや不安,焦燥性興奮,攻撃行動等を低減させ,認知機能の改善に効果があるとして,病院や高齢者施設で実践されてきた.しかし,これらの症状軽減に音楽療法の効果が認められるという報告もあれば,認められないという報告もなされ,結果の一貫性が低い.これは,音楽療法そのものに効果がないというよりも,研究方法上の問題だと考えられる.
キーワード 認知症高齢者,音楽療法,認知機能,BPSD,エビデンス
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論文名 認知症の人と家族に対する心理教育
著者名 松本一生
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,28(12):1380-1385,2017
抄録 認知症の療法として第1選択されるべきは非薬物療法である.心理教育は適切な情報提供と介護者の共感による支えを基本とする精神療法(心理療法)のひとつで,認知症の行動・心理症状(BPSD)など諸症状を軽減することができるため非薬物療法として期待できる(後藤ら,1998).認知症の中核症状を改善するものではないが,BPSDの繰り返しによる悪化を抑えることで認知症自体の悪化を防ぐ実践を重ねている.元来は統合失調症の再発防止として家族の感情表出へのアプローチとして始まった心理教育(Andersonら,1988)だが,本稿では臨床現場における心理教育が認知症の人と家族への精神療法的効果について考察を加えるとともに,今後の課題についても考える.
キーワード BPSD,家族感情表出,情報提供,共感の場,単家族
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