論文名 | ワーキングメモリ研究の動向;高齢者を中心に |
著者名 | 苧阪直行 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,25(5):491-497,2014 |
抄録 | ワーキングメモリは高齢者のもの忘れや行為のし忘れなどのセンシティブな指標となる点で,その簡易検査の導入は認知症の早期予防につながると考えられる.有病率の推定値から予測して,少子高齢社会で認知症となる可能性のある高齢者は増加の一途をたどっている.認知症に移行する確率の高い軽度認知障害(MCI)をもつ高齢者に対して,ワーキングメモリ評価の基準を定めて,早期の検出と予防のための訓練などを実施することで,介護などの社会的コストを大幅に削減することができよう. |
キーワード | ワーキングメモリ,認知症,高齢者,前頭前野,リーディングスパンテスト(RST) |
論文名 | 高齢者のワーキングメモリ |
著者名 | 大塚結喜 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,25(5):498-503,2014 |
抄録 | ワーキングメモリは高齢者の記憶システムのなかでも最も衰えている記憶機能のひとつである.その原因は脳の前頭葉の衰退にあると考えられてきたが,近年のニューロイメージング研究では前頭葉だけでなく,ワーキングメモリを支える脳内ネットワークが高齢者と若年者では異なっている可能性が指摘されている.本論文では,高齢者のワーキングメモリを支える脳内ネットワークを検討したニューロイメージング研究について紹介した. |
キーワード | ワーキングメモリ,高齢者,前頭前野,上頭頂小葉 |
論文名 | ワーキングメモリの神経科学 |
著者名 | 越野英哉 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,25(5):504-508,2014 |
抄録 | ワーキングメモリは近年,さまざまな教育,臨床場面におけるトレーニングなどの広まりとともに社会のなかで注目を集めるようになってきた.ワーキングメモリに関してはいくつかのモデルがあるが,最も一般的なBaddeleyのモデルにおいては,言語性,視空間性の保持機構と,それらをコントロールする中央実行系が仮定される.本稿においてはワーキングメモリの神経基盤に関する基本的な概念をまとめることを目的とした. |
キーワード | ワーキングメモリ,実行系機能,音韻ループ,視空間スケッチパッド,fMRI |
論文名 | ワーキングメモリの個人差と教育への応用 |
著者名 | 湯澤正通 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,25(5):509-515,2014 |
抄録 | 本稿では,ワーキングメモリ(WM)理論を教育へ応用した研究とその方法を紹介する.WMは学習において重要な役割を果たしている.そして,WMには大きな個人差があり,WMが極端に弱いのが発達障害を抱える者である.教育現場では発達障害を抱える児童・生徒に対する支援が課題となっており,WM理論は彼らのアセスメントと支援に役立っている.生涯学習が強調される今日,WM理論からの教育への示唆は児童・青年期だけでなく老年期にも当てはまるものである. |
キーワード | ワーキングメモリ(WM),発達障害,アセスメント,学習,支援 |
論文名 | アルツハイマー病におけるワーキングメモリの障害 |
著者名 | 坂村 雄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,25(5):516-521,2014 |
抄録 | アルツハイマー病におけるワーキングメモリの障害について,最近の研究の内容について概説した.音韻ループはアルツハイマー病初期では保たれており,言語性記憶障害については中央実行系の影響が考えられる.視空間記銘メモの課題結果の解釈には,中央実行系の影響の考慮が必要である.中央実行系の評価には二重課題が有効であるが,障害の始まる時期についての一致した見解には至っていない.エピソードバッファの評価はアルツハイマー病の初期における予防の手がかりとなる可能性がある. |
キーワード | ワーキングメモリ,中央実行系,エピソードバッファ,二重課題,アルツハイマー病 |
論文名 | ワーキングメモリと社会的行動 |
著者名 | 沖村 宰,前田貴記,加藤元一郎 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,25(5):522-529,2014 |
抄録 | ワーキングメモリと社会的行動の関連として,まず,高次脳機能障害での両者の障害の関連についてまとめた.次に,自閉症スペクトラム障害の顔の表情分析の障害について,視覚情報処理過程のボトムアップ的処理の障害とワーキングメモリのチャンキングによる代償について述べた.最後に,脳機能画像研究の発展は脳の各領域の機能的ネットワークの相互作用の自由度の高さを示し,この発展のなかで,健常者でのメンタライジングという社会的行動における人らしさの中核においてもワーキングメモリのチャンキングが関連することを示す研究を紹介した. |
キーワード | 高次脳機能障害,自閉症スペクトラム障害,メンタライジング,チャンキング,機能的ネットワーク |
論文名 | ワーキングメモリと感情に関する近年の研究動向 |
著者名 | 上田紋佳 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,25(5):530-535,2014 |
抄録 | ワーキングメモリにおける認知的活動は,感情によって影響を受けることが知られている.ワーキングメモリと感情に関する研究は,記憶の一般法則を解明する文脈における研究と,精神障害にみられる記憶の機能不全に関する研究の大きく2つに分類される.本稿では,この2つの観点から先行研究を概観した.とくに後者に関して,抑うつの制御機能に関する研究に着目し,抑うつは制御機能の低下と関連することを概説した. |
キーワード | ワーキングメモリ,感情,情動,抑うつ |
論文名 | 発達障害者の生涯発達とワーキングメモリ |
著者名 | 橋本創一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,25(5):536-542,2014 |
抄録 | 高齢期の発達障害者の研究はいまだ低調である.診断に関する課題や実態検証の方法にむずかしさが残されている.DSM-5による診断基準の変更は,発達障害による支援対象の範囲に影響を及ぼすことが推測され,生涯発達支援の観点からも検討する必要がある.発達障害者のワーキングメモリ研究の知見から,自閉症スペクトラムにみる視空間ワーキングメモリの制約の著しさと,注意欠如/多動性障害の全般的なワーキングメモリの弱さがみられることが概観された. |
キーワード | 発達障害,生涯発達,ワーキングメモリ,DSM-5 |