老年精神医学雑誌 Vol.25-10
論文名 人生後半期の嫉妬妄想
著者名 古城慶子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1083-1090,2014
抄録 嫉妬の精神病理を老年精神医学の特殊問題への寄与という観点から取り上げた.性欲と性的関心との性格学的区別から,人生後半期の嫉妬成立には身体起因性疾患群とうつ病相群では性欲低下と性的関心の増大から自意識を復旧しようとするひがみ的嫉妬を,急性統合失調症群を含む躁病相群では性欲および性的関心の亢進と自意識昂揚によるうぬぼれ的嫉妬を指摘できた.エロス(捨我)的な献身の愛だけでは嫉妬は生じず,同時に渇望つまりセックス的な所有欲(執我)の混合が嫉妬の必要条件であることを確認した.
キーワード delusion of jealousy,elderly,delusion of infidelity,conjugal paranoia,Othello syndrome
↑一覧へ
論文名 接触欠損パラノイド
著者名 野原 博,前田貴記,鹿島晴雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1091-1098,2014
抄録 接触欠損パラノイド(Kontaktmangelparanoid)は,1973年にJanzarikによって提唱され,60歳以降に初発し,慢性統合失調症の症状を示す妄想性精神病である.接触欠損パラノイドは,社会的に孤立した状況で発症し,住宅境界に関連した妄想主題,女性に多くみられること等を主な特徴とする.その病名にも記されているように,人的交流が乏しいことが病因とされている.治療にあたっては,薬物療法のみならず,患者のおかれた環境にも配慮して適度な人的交流を図る等の環境調整に留意すべきである.
キーワード 社会的孤立,高齢統合失調症,住宅境界,構造力動論
↑一覧へ
論文名 微小妄想とコタール症候群
著者名 田中久美子,針間博彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1099-1104,2014
抄録 微小妄想は必ずしもうつ病性のものとは限らないため,全体像を踏まえた一次妄想と二次妄想の鑑別が診断上重要である.退行期うつ病と診断しうる場合であっても,妄想が一次性に生じていれば,妄想性障害の可能性も考慮すべきである.心気妄想の特殊形態である否定妄想を中心としたコタール症候群も,退行期うつ病のなかで生じていると考えられる場合は,同様の診断的問題を伴う.治療上は,気分障害と妄想性障害の両方の可能性を残しつつ,自殺のおそれや拒食に対する速やかな対応が必要である.
キーワード delusions of unworthiness,hypochondriac delusions,involutional melancholia,delusion of negation(nihilistic delusion),Cotard’s syndrome
↑一覧へ
論文名 遅発パラフレニーにおける妄想とそれへの対処についての一示唆;妄想が展開する場所の限局性と住所地からの引き離し
著者名 中安信夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1105-1113,2014
抄録 統合失調症(妄想型)との鑑別診断という観点から遅発パラフレニーの妄想を検討し,遅発パラフレニーにおいては妄想が展開する場所は限局性(住所地限局的)であって,その点で広範性(生活圏広範的)である統合失調症(妄想型)と対比をなしているという結論を得た.この結論からは,住所地からの引き離しが遅発パラフレニーの妄想への対処法として浮かび上がってきたが,これまでの遅発パラフレニーの本邦報告例の検討を通してその有効性が確認された.
キーワード late paraphrenia,late-onset schizophrenia,paranoid schizophrenia,delusion
↑一覧へ
論文名 皮膚寄生虫妄想
著者名 船山道隆
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1114-1118,2014
抄録 皮膚寄生虫妄想は,初老期にまれに出現し,女性に多く,患者はかゆみや感覚異常を訴え,虫によってもたらされたと頑なに信じている妄想である.発症は緩徐で著しい人格変化を呈さない.皮膚寄生虫妄想は他の精神症状を伴わない純粋型だけではなく,統合失調症や遅発パラフレニーなどでも出現し,体感異常型統合失調症との類似点も示唆される.抗精神病薬がしばしば症状の軽減をもたらす.
キーワード 皮膚寄生虫妄想,Ekbom syndrome,体感異常
↑一覧へ
論文名 妄想性同定錯誤症候群
著者名 久松徹也,濱田秀伯
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1119-1125,2014
抄録 妄想性同定錯誤症候群(delusional misidentification syndrome)を構成する,カプグラ症候群(Capgras syndrome),フレゴリの錯覚(Fregoli syndrome),相互変身症候群(intermetamorphosis),自己分身症候群(syndrome of subjective doubles)の4症候群について,現在までの研究をまとめ,それぞれの特徴と分類,相互の関係性,成立機序の観点から概説した.さらに統合失調症急性増悪期にみられたカプグラ症候群の自験例を呈示した.
キーワード 妄想性同定錯誤症候群,カプグラ症候群,フレゴリの錯覚,相互変身症候群,自己分身症 候群
↑一覧へ
論文名 高齢化した統合失調症の妄想
著者名 新村秀人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1126-1130,2014
抄録 高齢化した統合失調症の妄想を論じた.長期経過研究により,統合失調症では経過とともに精神病症状が軽減し晩期寛解に至ることがわかった.統合失調症の妄想は,若年時は被害妄想が多いが,老年期になると深刻さが減じて内面的・願望充足的となって被害妄想は誇大妄想に変化し,心気妄想や権利侵害的な妄想など生活に即したテーマが増える.治療では,加齢による身体機能の変化を考慮して抗精神病薬は少量で用いるべきであり,精神療法は現実検討を支える姿勢が有用と思われる.
キーワード 統合失調症,高齢,老い,妄想,治療
↑一覧へ
論文名 レビー小体型認知症の幻覚・妄想
著者名 小阪憲司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,25(10):1131-1137,2014
抄録 レビー小体型認知症はBPSDが早期から最も起こりやすい認知症である.とくに特有な幻視とそれに基づく妄想や抑うつが起こりやすく,初期に診断することはその後の治療方針に大きな影響を与えるので非常に重要である.とくに,レビー小体型認知症の幻覚と妄想は,精神科医には誤診されていることが多く,抗精神病薬への過敏性を十分理解していないと予後に悪影響を与えることから,使用する薬剤などにも注意するべきである.
キーワード レビー小体型認知症,視覚認知機能障害,幻視,妄想,治療
↑一覧へ