老年精神医学雑誌 Vol.23-8
論文名 高齢者の神経伝達機能
著者名 古関竹直,鳥海和也,山田成樹,鍋島俊隆
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):907-913,2012
抄録 ドーパミン,セロトニン,GABA,グルタミン酸,アセチルコリンなどの作動性神経系は相互にネットワークを構築し,神経伝達機能を制御している.高齢者では,加齢に伴う脳の老化によりこれら神経系の機能が変化し,各種神経・精神疾患のリスク因子となるだけでなく,薬物反応性も変化する.したがって,高齢者における神経伝達機能が成人に比べて,どのように変化しているかを知ることは適切な治療を行ううえできわめて重要である.本稿では,神経伝達機能と加齢による変化を理解するため,神経伝達物質の脳内分布やその基本的な役割,神経伝達物質の研究の進歩,また加齢による神経伝達機能と薬物反応性の変化について,GABA作動性神経系を中心に概説する.
キーワード 加齢,GABA,高齢者,神経伝達機能,神経伝達物質,薬物反応性
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論文名 高齢者とドーパミン機能
著者名 小高文聰
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):914-917,2012
抄録 ドーパミン(DA)作動性神経系はヒトの認知機能の制御に重要な役割を果たしている.DA作動性神経系を構成する受容体,酵素およびトランスポーターなどのDA関連分子群は加齢により減少することが知られている.過去のpositron emission tomography(PET)およびsingle photon emission tomography(SPECT)を用いた研究結果を総合すると,DA関連分子は10年ごとに約4〜13%程度減少する.DA関連分子の加齢変化と認知機能の加齢変化との関係は複数のPET/SPECT研究で探索されているが,議論の焦点は加齢変化に起因するDA関連分子の低下が直接認知機能低下に関係するかである.最近のPET研究では認知課題中のDA放出能を年代別に比較するといったアプローチが散見され,加齢によるDA作動性神経系の機能的変化に関する知見が深まることが期待される.
キーワード dopaminergic neurotransmission,aging,cognitive function,positron emission tomography,single photon emission tomography
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論文名 高齢者とセロトニン機能
著者名 吉岡充弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):918-922,2012
抄録 セロトニンは神経機能,とくに食欲,睡眠,性行動,情動,認知機能に重要な役割を果たしている.正常な加齢におけるセロトニン神経細胞や脳内セロトニン量の変動は高齢者における睡眠行動や認知機能の変化に寄与することのみならず,高齢者のうつ病発症のリスクファクターとなる可能性が示唆されている.以上のようにセロトニン神経系における加齢とストレス脆弱性,そしてうつ病との関連性が示唆されてはいるが,セロトニン神経系への純粋な加齢の影響を明らかにしたデータはまだ少ない.
キーワード 縫線核,トリプトファン,キヌレニン,モノアミン酸化酵素,PET
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論文名 高齢者とノルアドレナリン機能;うつ病・うつ状態との関連
著者名 吉村玲児,中村 純
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):923-926,2012
抄録 加齢に伴うノルアドレナリン神経系機能に関して概観した.ノルアドレナリンの主要代謝産物である3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol(MHPG)は健常高齢者の認知機能と関連していた.また,認知症の初期には代償的にノルアドレナリン神経系の機能が亢進しており,病期の進行とともに低下する可能性が想定された.高齢者のうつ病で,意欲や活動性などのノルアドレナリンやドパミン機能の低下が考えられるタイプではセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)投与が奏効する可能性がある.
キーワード 加齢,ノルアドレナリン神経,MHPG,高齢者のうつ病,薬物療法
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論文名 高齢者とアセチルコリン機能
著者名 堀田晴美,原 早苗
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):927-931,2012
抄録 視床や大脳皮質などを広範に支配する2つの投射系を含む脳内コリン作動系は,注意などの,意識における必須の要素を調節し,認知機能を支える.大脳皮質において,アセチルコリンは,シナプス伝達修飾作用のほか,脳血流や神経成長因子分泌の促進作用,神経保護作用をももち,歩行や感覚刺激で放出される.加齢は,アルツハイマー病の最も重要な危険因子である.高齢者では感覚入力の低下に伴いコリン作動系機能が低下し,脳の脆弱性が増す一因となりうる.
キーワード 高齢者,アセチルコリン,神経成長因子,脳血流,アルツハイマー病
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論文名 高齢者とグルタミン酸機能
著者名 橋本謙二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):932-937,2012
抄録 グルタミン酸は脳内に豊富に存在するアミノ酸であり,ニューロンでグルタミンから生成され,興奮性神経伝達物質として重要な役割を果たしている.また生体内に存在する抗酸化物質グルタチオンは,グルタミン酸を原料として生成され,生体内で生じるさまざまな酸化的ストレスに対する防御機構を有する.本稿では,老化に伴う精神神経疾患の病態におけるグルタミン酸およびグルタミン酸関連物質の役割について考察する.
キーワード glutamate,glutamine,glutamine-glutamate cycle,glutathione,NMDA receptor
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論文名 高齢者の神経伝達機能を考慮した抗精神病薬による治療
著者名 福原竜治
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):938-944,2012
抄録 社会が高齢化するにつれて,高齢者に抗精神病薬を投与する機会はますます増加する.高齢者では副作用が出現しやすく,加齢による薬物動態学的変化について知る必要がある.近年の分子イメージングなどによる生物学的研究の発展により,抗精神病薬の脳内での働きに関する知見が蓄積されてきている.加齢による薬物動態学,薬力学的変化だけでなく,高齢者で起こる神経伝達機能の変化について考慮していくことで,薬物療法はより最適化されていくことが期待される.
キーワード 抗精神病薬,加齢,薬物動態学,薬力学,認知症
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論文名 高齢者の神経伝達機能を考慮した抗うつ薬による治療
著者名 河野敬明,稲田 健,石郷岡純
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):945-951,2012
抄録 高齢者のうつ病診療においてもうつ状態を呈する障害を鑑別することは重要である.とくに,認知症を鑑別し,認知機能障害を生じさせないように抗うつ薬治療を行うことが重要である.抗うつ薬による副作用や認知機能へ与える影響は各薬剤間で相違があり,副作用の原因となる受容体への影響の少ない選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった新規抗うつ薬を選択することが望ましい.
キーワード 抗うつ薬,うつ病,認知症,せん妄,認知機能
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論文名 高齢者の神経伝達機能を考慮したアセチルコリン系薬物による治療
著者名 下濱 俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):952-958,2012
抄録 アルツハイマー病の新薬としてガランタミン,メマンチン,リバスチグミンが承認された.メマンチンはN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬であるが,ほかの2つはドネペジルと同じアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬に分類される.同じAChE阻害薬に属する薬物であってもその特性には差があるため,変更やメマンチンとの併用の方法を含め選択肢が大幅に増加することが推測される.
キーワード dementia,Alzheimer's disease,donepezil,galantamine,rivastigmine
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論文名 高齢者の神経伝達機能を考慮したグルタミン酸薬物による治療
著者名 宮田久嗣
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(8):959-964,2012
抄録 メマンチン(memantine)は世界で初めてのNMDA受容体拮抗薬として,アルツハイマー型認知症(AD)のグルタミン酸の異常によって生じる神経細胞傷害や,学習記憶の分子的基盤とされる長期増強形成障害を抑制する.適応は中等度〜高度のAD患者で,認知機能障害への改善効果を示す.また,行動・心理症状における興奮,易刺激性,夜間の行動異常への効果はメマンチンの特徴とされる.有害事象は便秘,めまい,頭痛,高血圧などであるが,他の認知症治療薬と比較して安全性は高い.メマンチンは,作用機序が他の認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬)と異なることから併用療法として用いられることが多いが,このような併用療法が認知機能障害や日常生活動作の悪化を長期に抑制することが報告されている.認知症治療にメマンチンが加わり,新たなADの薬物療法の選択肢が広がったといえる.
キーワード memantine,NMDA受容体,グルタミン酸,アルツハイマー型認知症,認知症の行動・心理症状
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