老年精神医学雑誌 Vol.23-6
論文名 新しいアルツハイマー病の診断基準の確立を目指して;最前線の研究成果と臨床現場
著者名 長濱道治,田中一平,大塚章子,堀口 淳
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(6):671-679,2012
抄録 "NINCDS-ADRDA(National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke-Alzheimer,s Disease and Related Disorders Association)の診断基準が提案されてから27年ぶりとなる2011年4月にアメリカのNational Institute on Aging(NIA)とAlzheimer,s Association(AA)から新たに診断基準が提案された.画像診断やバイオマーカーの研究の成果が進歩し,診断基準に盛り込まれる傾向があるが,早期診断・早期介入の重要性という観点からも,これらの進歩は今後も期待するところである.本稿では,一般的に行われているアルツハイマー病(AD)の診断についての現状とその問題点について概説するにあたり,以下の2点を中心に据えて論述したい.
@最先端の研究による知見は,新たな診断基準を作成する場合に引用できるか.
A現時点で頻用されている診断基準が,第一線の臨床現場において真に役立つ診断基準となっているか."
キーワード National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke-Alzheimer,s Disease and Related Disorders Association(NINCDS-ADRDA),National Institute on Aging-Alzheimer,s Association(NIA-AA),diagnosis,Alzheimer,s disease
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論文名 髄液生化学的マーカーとpreclinical stageの診断
著者名 谷口美也子,浦上克哉
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(6):680-685,2012
抄録 NINCDS-ADRDAの診断基準設定以降,アルツハイマー病(AD)の病態,病理の解析研究は大きく進展し,ようやく研究の成果の蓄積が反映されたかたちで2011年に改訂された新診断基準が提案されるに至った.とくにpreclinical stage(臨床前段階)の設定は,研究指標であるため注意すべき点はあるものの,さらなる基礎研究の発展や治療への試みの促進を念頭においたものであり,今後それらの成果を反映することによってAD発症前の超早期診断や治療の発展へと大きく貢献できると期待できる.
キーワード 脳脊髄液,バイオマーカー,タウタンパク,リン酸化タウタンパク,アミロイドβタンパク(Aβ)
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論文名 MRI統計学的解析とpreclinical stageの診断
著者名 松田博史
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(6):686-692,2012
抄録 アルツハイマー病の前臨床段階におけるMRI研究が進んでいる.構造的MRI研究では,全脳を探索する統計学的な萎縮評価により,アルツハイマー病への進行例は前臨床段階ですでに特異的な萎縮が内側側頭部を中心にみられており,縦断的な検討ではこれらの領域での萎縮の加速が検出される.機能的MRI研究では,default mode networkにおける機能異常が前臨床段階で後部帯状回〜楔前部などで検出されている.
キーワード アルツハイマー病,前臨床段階,MRI,萎縮,機能的MRI
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論文名 Preclinical stageのアミロイドイメージングから期待されるもの
著者名 石井賢二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(6):693-700,2012
抄録 新しいアルツハイマー病(AD)臨床診断基準では,アミロイドイメージングを含むバイオマーカーが組み入れられ,research criteriaとして前臨床期のアルツハイマー病(preclinical AD)が定義された.Preclinial ADとは,脳内Aβ沈着が存在する健常者であり,この時期に介入して発症予防を試みる臨床研究が始まろうとしている.実効性のある発症遅延法が確立できるかどうか,AD克服に向けた研究の成果が注目される.
キーワード preclinical Alzheimer's disease,アミロイドイメージング,PET, 無症候性アミロイドーシス,発症予防
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論文名 脳血流と脳糖代謝所見はpreclinical stageの診断に役立つか
著者名 伊藤健吾,加藤隆司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(6):701-707,2012
抄録 無症状のpreclinical stageにおいて脳糖代謝PETは,ApoE ε4陽性など高リスク群の脳糖代謝の異常を検出することが可能で,予防的介入を行う場合の治療効果判定への応用が期待される.軽度認知障害(MCI)の段階におけるprodromal ADの診断について,これまでの報告では,脳血流SPECT,脳糖代謝PETともに1〜2年以内にADへ進行する症例の診断能は高いとされる.しかし,前向きコホート研究では特異度の低下が観察され,視察以外の評価法や他検査を併用する必要性が示唆されている.
キーワード アルツハイマー病,早期診断,発症前診断,SPECT,PET
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論文名 Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)の最新情報
著者名 岩坪 威
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(6):708-713,2012
抄録 アルツハイマー病(AD)の発症メカニズムに即した疾患修飾薬の実用化に向けて,PET,MRIなどの脳画像技術や体液生化学マーカーなどを組み合わせて,ADの早期進行過程を客観的・計量的に評価する方法を確立しようとする大規模臨床観察研究(ADNI)がアメリカ,わが国で進行中である.ADNIによりADの進行度指標,発症予測指標などが確立し,軽度認知障害のなかでADの病理学的背景を有する症例はprodromal ADとして疾患修飾薬の治験対象と定まりつつある.さらに臨床症状の発症前段階のpreclinical ADに対する先制医療の動きも始まっている.
キーワード ADNI,疾患修飾療法,画像マーカー,バイオマーカー
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論文名 アルツハイマー病の根本的治療を目指した治療薬開発の現状と戦略
著者名 武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,23(6):714-722,2012
抄録 わが国のアルツハイマー病(AD)治療薬の開発は世界的にみても独自の歴史を有している.ドネペジル開発以前には多くの脳代謝改善薬・脳循環改善薬が使用されていたが,1999年からはドネペジルが唯一の薬剤となり2011年にようやく4剤となった.現在使用されているAD治療薬は対症療法薬ともいうべきものであり,大きな限界を有している.したがって引き続き根本治療薬の開発が急がれているのであるが,残念ながら,ここ20年間のAD治療薬の開発は失敗の連続であった.このような状況を鑑みながら,どのような戦略が可能であるかについて概説した.
キーワード アルツハイマー病,対症治療薬,根本治療薬,アミロイド免疫療法,アミロイド産生阻害薬
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