老年精神医学雑誌 Vol.21-8
論文名 BPSD概念の提唱と臨床への寄与
著者名 粟田主一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(8):843-849,2010
抄録 BPSDは,1996年に国際老年精神医学会(IPA)によって開催された「認知症の行動障害に関するコンセンサス会議」のなかで提唱された用語であり,「認知症患者に頻繁にみられる知覚,思考内容,気分,行動の障害の症候」と定義されている.BPSD概念の提唱によって,BPSDの疫学,成因,影響,介入に関するエビデンスは着実に蓄積し,専門教育のための教材やガイドラインも策定されるようになった.BPSD概念の提唱は,認知症臨床の技術的進歩のみならず,認知症の専門知識の多領域への普及にも寄与している.
キーワード 認知症,BPSD,周辺症状,ガイドライン,専門知識の普及
↑一覧へ
論文名 アルツハイマー病のBPSD
著者名 高橋未央,山下功一,天野直二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(8):850-857,2010
抄録 アルツハイマー病に特徴的な周辺症状(BPSD)として,不安・焦燥,うつ状態,妄想,幻覚,せん妄,拒絶,興奮,暴言・暴力,徘徊,性的行為を挙げ,それぞれについて解説した.その原因については本人の認知機能,身体機能の低下がベースにあり,さらに家族や介護者の対応,BPSDへの知識の不足などが考えられる.アルツハイマー病のBPSDは認知機能の低下に伴いさまざまな病期でみられるが,他の認知症疾患と比べても介護者の対応や環境調整,薬物療法などの医療介入をすることによって緩和できる可能性があることを指摘した.
キーワード アルツハイマー病,BPSD,うつ状態,妄想,暴言・暴力,徘徊
↑一覧へ
論文名 レビー小体型認知症のBPSD
著者名 長濱康弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(8):858-866,2010
抄録 レビー小体型認知症(DLB)では初期から幻覚や誤認,抑うつなどがアルツハイマー病(AD)より高頻度にみられ,妄想,apathy,agitation,不安などのBPSDはADと同程度にみられる.DLBの精神症状は幻覚,誤認,妄想に大きく分類される.カプグラ症状,幻の同居人,重複記憶錯誤,人物誤認は“誤認”に含まれ,実体意識性は幻覚の近縁症状である.病態生理上,DLBの幻視は視覚連合野,誤認は辺縁−傍辺縁系,妄想は前頭葉の機能不全とそれぞれ関連することが示唆される.
キーワード レビー小体型認知症,幻視,妄想性誤認症候群,誤認,妄想,脳血流SPECT
↑一覧へ
論文名 前頭側頭型認知症のBPSD
著者名 繁信和恵
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(8):867-871,2010
抄録 前頭側頭型認知症(FTD)は脱抑制や常同行動,被影響性の亢進などの特徴的な精神症状や行動障害(BPSD)がみられる.それらの多くは前頭葉,側頭葉の機能低下に由来する.またそれらの症状はFTDの診断基準にも含まれる.そのためFTD患者のBPSDを正確に評価することは,FTDを正確に診断し,治療やケアに生かしていくうえでも重要である.
キーワード 前頭側頭型認知症,常同行動,反社会的行動,脱抑制,食行動異常
↑一覧へ
論文名 アルツハイマー病におけるBPSDの治療と対応
著者名 水上勝義
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(8):872-878,2010
抄録 アルツハイマー病の経過中にみられるBPSDに対しては,非薬物療法と薬物療法が行われる.非薬物療法としては,患者への心理,行動療法的アプローチのほかに,介護家族に対する介護指導や情報提供,介護保険を介したサポートサービスの導入などが行われる.薬物療法を行う場合は安全性への配慮が最も大切である.抗精神病薬に代わる代替治療薬を活用することも有用である.
キーワード アルツハイマー病,BPSD,非薬物療法,薬物療法
↑一覧へ
論文名 レビー小体型認知症におけるBPSDの治療と対応
著者名 野澤宗央,村山憲男,井関栄三
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(8):879-884,2010
抄録 認知症に伴う精神症状・行動障害(BPSD)は,介護者の負担を増やし,在宅介護破綻の一因となることが多い.レビー小体型認知症(DLB)は認知症のなかで最もBPSDを呈しやすい疾患であり,このうち,臨床診断基準の中核症状である繰り返し現れる幻視がDLBに特徴的で,示唆症状であるREM睡眠行動障害,支持症状である幻視以外のタイプの幻覚,系統的な妄想,抑うつ,その他,錯視,変形視,実体的意識性,人物誤認や場所誤認,カプグラ症状などのBPSDがみられる.幻視などのBPSDに対する薬物療法として,ドネペジルなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が第1選択薬とされており,そのほかクエチアピンなど少量の非定型抗精神病薬や漢方薬である抑肝散などが用いられる.DLBでは抗精神病薬に対する感受性の亢進がみられ,錐体外路症状などの副作用が生じやすく,BPSDの薬物療法には注意が必要である.また,DLBのBPSDに対しては,効果的な薬物療法とともに,個々の患者に応じた対応と非薬物療法を行うことも重要である.
キーワード dementia with Lewy bodies,BPSD,幻視,donepezil,非定型抗精神病薬
↑一覧へ
論文名 前頭側頭型認知症におけるBPSDの治療と対応
著者名 品川俊一郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(8):885-890,2010
抄録 前頭側頭型認知症(FTD)では,脱抑制や反社会的行動,常同行動,食行動異常などのBPSDが病初期から顕在化し,その介護負担が大きい.選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が脱抑制や常同行動,食行動異常などに有効であるとの報告が増えているが,小規模な試験が多く今後のエビデンスの確立が求められる.FTDの症状の特徴を利用した行動療法的アプローチにより,患者自身のQOLの改善と介護者の負担軽減が期待できる.また介護者教育と適切な環境設定も重要である.
キーワード FTD,薬物療法,SSRI,非薬物療法,ルーティン化療法,介護者教育