老年精神医学雑誌 Vol.21-5
論文名 変性性認知症にかかわる遺伝子と発症メカニズム;AD-FTLDスペクトラム
著者名 武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(5):505-513,2010
抄録 変性性認知症(アルツハイマー病,前頭側頭型認知症)のリスク遺伝子の検討が進められている.アルツハイマー病の原因遺伝子としてアミロイド前駆体タンパク,プレセニリン-1,プレセニリン-2があり,強力なリスク遺伝子としてアポリポタンパクE4がある.一方,前頭側頭型認知症の原因遺伝子として,FTDP-17においてはタウの変異が同定され,続いてプログラニュリン遺伝子変異が同定された.前頭側頭型認知症においてはタウ陽性の封入体はタウタンパクから構成され,タウ陰性ユビキチン陽性の封入体の構成タンパクがTDP-43であることが明らかになった.このような知見を踏まえて変性性認知症に共通する神経変性機序についての新しい理解が可能であることを論じた.
キーワード アルツハイマー病,前頭側頭型認知症,タウ,プレセニリン,TDP-43
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論文名 アミロイド前駆体タンパク
著者名 柴田展人,新井平伊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(5):514-519,2010
抄録 アミロイド前駆体タンパク(APP)遺伝子は家族性アルツハイマー病(FAD)の原因遺伝子として,1991年に初めて報告された4).その後のプレセニリン-1,-2遺伝子の発見とともに,AD発症の病態解明に大きく寄与している.ADの主病態としてアミロイドカスケード仮説が有力であるが,APPはその端緒であり,その重要性は高い.本稿では近年のAPP遺伝子研究,APPから産出されるアミロイドβタンパク(Aβ)の最近の課題も含めて,総説する.
キーワード アミロイド前駆体タンパク,家族性アルツハイマー病,点突然変異,α,β,γ-セクレターゼ,アミロイドワクチン
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論文名 プレセニリン研究の過去と現在
著者名 大河内正康,武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(5):520-531,2010
抄録 プレセニリン(PS)遺伝子発見の経緯からその生理機能がいかにして明らかにされたか簡単にまとめた.続いて,PS遺伝子の翻訳後修飾として重要であるPSタンパク質の複合体形成と安定化について概説した.さらに,アルツハイマー病(AD)に関連してPS複合体がγ-セクレターゼ機能を発揮するという重要な発見に至る経緯について記した.その後「Aβ様ペプチド」の概念,Notch-1のS4切断部位の発見などを含めて「デュアル切断メカニズム」の詳細にふれた.最後に,この「デュアル切断」の仕組みの解明が現在どこまで進んでいるか,最新のデータを含めて解釈してみた.また,膜内タンパク分解機構を標的としたPS関連基礎研究がどのようにAD診断治療薬開発に役立つ可能性があるか議論した.
キーワード プレセニリン,γ-セクレターゼ,Aβ,Notchシグナル,βAPP
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論文名 タウ
著者名 田中稔久,武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(5):532-541,2010
抄録 タウタンパクは微小管付随タンパクのひとつであり,通常は微小管重合を促進して細胞骨格形成に関与している.タウタンパクが細胞体内に異常蓄積する疾患をタウオパチーと称されるが,このときタウは過剰にリン酸化されており通常の機能を喪失している.タウ遺伝子変異によるFTDP-17の発見によりalternative splicingおよび微小管重合能への影響などが疾患に関与していると考えられる.今後タウの神経変性への関与のメカニズムがいっそう解明されることが期待される.
キーワード タウタンパク,微小管,リン酸化,タウオパチー,FTDP-17
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論文名 α-シヌクレイン
著者名 山本泰司,小田陽彦,前田 潔
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(5):542-554,2010
抄録 1988年,Maroteauxらがシヌクレインと命名して20年あまりが経過した.ヒトα-シヌクレインは1993年にクローニングにより同定されて以来,現在に至るまで多くの知見が報告されている.臨床的にみると以前からパーキンソン病(PD〈PDD〉),レビー小体型認知症(DLB),多系統萎縮症(MSA)などの疾患との関連が多く報告されてきたが,最近になってアルツハイマー病(AD)の発症にも関与している可能性が高いことがわかってきた.本稿では,現在までに報告されているα-シヌクレインに関する知見を総括的に述べる.
キーワード α-シヌクレイン,シヌクレイノパチー,認知症,レビー小体,パーキンソン病,アルツハイマー病
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論文名 プログラニュリン
著者名 根建 拓,松脇貴志,朝倉 麗,西原真杉
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(5):555-560,2010
抄録 近年,認知症のひとつである前頭側頭葉変性症と成長因子プログラニュリンの遺伝子変異が連関することが報告され,脳神経系におけるプログラニュリン研究は大きな注目を集めている.さらに,実験動物や培養細胞を用いた研究から,脳神経系におけるプログラニュリンの生理作用,発現制御機構が急速に明らかにされつつある.本稿では,プログラニュリンに関する研究の現状と今後の課題について,筆者らが得た知見を交えながら紹介する.
キーワード プログラニュリン,前頭側頭葉変性症,筋萎縮性側索硬化症,神経変性,神経新生
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論文名 TDP-43
著者名 細川雅人,新井哲明,秋山治彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(5):561-571,2010
抄録 TAR DNA-binding protein of 43 kDa(TDP-43)は,前頭側頭葉変性症(FTLD)および筋萎縮性側索硬化症(ALS)の特徴的病理構造物であるタウ陰性ユビキチン陽性封入体の主要構成成分である.TDP-43遺伝子変異の多くはALSの原因となるが,一部FTLDとの関連も認められる.TDP-43遺伝子変異と病態との関係にはいまだ不明な点が多いが,TDP-43の断片化や凝集体形成の促進などが指摘されている.TDP-43遺伝子変異を導入した細胞・動物モデルの開発が進んできており,今後これらを用いた解析による病態解明と治療法の開発が期待される.
キーワード 前頭側頭葉変性症(FTLD),筋萎縮性側索硬化症(ALS),神経細胞質内封入体(NCI),神経細胞核内封入体(NII),ミスセンス変異
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論文名 アポリポタンパクE4
著者名 高橋未央,鷲塚伸介,天野直二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,21(5):572-578,2010
抄録 アポリポタンパクEの遺伝子は第19番染色体長腕に位置しており,3つの主要なアイソフォームが存在し,そのなかのひとつであるアポリポタンパクE4はアルツハイマー病の危険因子として知られている.アルツハイマー病におけるアポリポタンパクE4の位置づけを,タンパクの構造,アイソフォーム,遺伝子,プロモーター,画像所見との関連などについて記述した.また,他の認知症とアポリポタンパクE4の関連に関しても若干の記述を加えた.
キーワード アポリポタンパクE4,アルツハイマー病,遺伝子,アイソフォーム,海馬
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