老年精神医学雑誌 Vol.20-2
論文名 高齢者の身体的訴え
著者名 斎藤正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(2):137-140,2009
抄録 厚生労働省,総務省,警察庁などの統計資料から,わが国の高齢者の健康観,身体的愁訴と実際の生活障害,自殺との関係などについて概観し,次いで,自験例の統計的解析から,高齢者の神経症性障害,気分障害と身体症状の関係について考察を試みた.医学的な裏づけを確認できない身体的愁訴に,精神医学的な問題が潜んでおり,神経症性障害,気分障害,自殺などと密接に関連している可能性があることを指摘した.
キーワード physical symptoms in elderly,suicide,neurotic disorders,somatoform disorders,mood disorders
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論文名 高齢者の心気的訴え
著者名 深津 亮
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(2):141-148,2009
抄録 心気症という用語は,多義的に用いられてきており,診断学的な厳密さを欠きある種の混乱を招くことになった.近年,神経症概念が排除され身体表現性障害に分類される心気症について概観した.「心気的訴え」について,正常な心理反応としての心気的訴え,神経症的な心気的訴え,身体疾患における神経症的愁訴(神経症的加重),不安性障害にみられる心気症状,身体表現性障害にみられる心気症,精神病を背景にした心気症状などさまざまな病態でみられる心気症について概説した.高齢者のおかれている状況はまさに葛藤的な状況であり,身体的存在への脅威としての心気症は十分了解できると考えられた.心気症は今後も重要な病態である.
キーワード 心気症,身体表現性障害,健康な心気症,神経症性心気症,精神病性心気症
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論文名 高齢者の身体表現性障害の診断基準
著者名 小田陽彦,山本泰司,前田 潔
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(2):149-153,2009
抄録 身体表現性障害の診断基準はとくに年齢で変化するものではない.ここでは主にDSM-W-TR分類の診断基準について概説し,身体表現性障害のそれぞれの亜型(身体化障害,鑑別不能型身体表現性障害,転換性障害,疼痛性障害,心気症,身体醜形障害)についてとくに高齢者を診断する際のポイントを記述し,最後に高齢者を身体表現性障害と診断する際には慎重であるべきことを強調し,漢方的診断についても少しふれた.
キーワード 高齢者,身体表現性障害,身体化障害,心気症,漢方医学
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論文名 高齢者の疼痛性障害
著者名 藤澤大介
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(2):154-159,2009
抄録 高齢者において疼痛性障害の診断基準を厳密に満たす例は少ないが,心気愁訴は頻度が高い.抑うつ,不安,併存する一般身体疾患,生来の性格傾向(とくに神経症傾向)が影響する.医療者はまず抑うつや不安の潜在を念頭において治療に当たる必要がある.抗うつ薬は一部に有効であるが,それだけでは症状が残遺することが多く,多面的な介入が必要である.一般身体化主治医への診療情報の提供は重要である.認知行動療法が若年〜壮年層には有効であり,高齢者に対しても有効であるかどうかの検証が待たれる.また,心気的な高齢者に対する薬物療法上の工夫についてもふれた.
キーワード 疼痛性障害(pain disorder),身体表現性障害(somatoform disorder),うつ病(depression),不安(anxiety),認知行動療法(cognitive behavioral therapy)
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論文名 高齢者の口腔内セネストパチー
著者名 宮地英雄,和気裕之,三橋 晃,玉置勝司,吉田芳子,宮岡 等
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(2):160-164,2009
抄録 身体所見に見合わない身体感覚の異常を奇妙な表現で訴える症状にセネストパチーがあり,口腔内にこの異常感覚を訴える場合,口腔内セネストパチーと呼ぶ.全般的に概念や診断になお議論があり,『理解できない訴え』=『セネストパチー』と呼ばれるような混乱を目にすることもある.口腔内セネストパチーは歯科疾患や歯科や口腔外科での治療を契機に症状が顕在化したり,口腔領域の疾患の鑑別や合併が問題となったりするため,診断や治療に歯科医師との良好な連携が不可欠である.明らかに有効であると認められている治療はないが,向精神薬の使用のほか,生活のリズムを整え,症状を和らげる患者なりの対応をとることを勧めることもある.
キーワード セネストパチー,歯科,リエゾン精神医学,心気症
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論文名 高齢期の睡眠障害 
著者名 井上雄一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(2):165-172,2009
抄録 高齢者では,加齢に伴う睡眠覚醒調節機能の変化,退職後の社会生活の変化,身体疾患の罹病,老年期心性などの影響が重積するため,多様な睡眠障害を呈することが多い.表現型としては,不眠が圧倒的に多いが,治療にあたっては,まず基本病態を正確に把握することが重要である.またとくに高齢期に起こりやすい睡眠障害(レストレスレッグ症候群や睡眠時無呼吸,不規則型睡眠覚醒パターンなど)については,これらに特化した専門治療を行うべきである.
キーワード 高齢者,不眠症,リズム障害,睡眠時無呼吸,睡眠衛生
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論文名 高齢者の身体的心気的訴えへの薬物療法
著者名 金井貴夫,石郷岡純
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(2):173-179,2009
抄録 高齢者の心気的訴えに対しての治療において前提となるのは,身体症状を治そうとするのではなく,その症状によって生じた機能障害を改善することである.治療戦略を立てるうえで,わが国の「心気症」の診断基準が有用であると思われた.この領域に薬物療法が寄与する限界性を踏まえたうえでエビデンスに基づく薬物療法を中心に紹介した.高齢者の薬物療法では,とくに副作用や薬物相互作用に十分留意する必要がある.
キーワード hypochondriasis,somatoform disorder,somatization,medically unexplained symptoms,functional somatic syndrome
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論文名 高齢者の身体的心気的訴えへの面接
著者名 田中宏明,小久保羊介,三村 將
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(2):180-184,2009
抄録 高齢者では,生理的な身体機能の低下,さまざまな疾患に伴う心身機能の病的な減退,離別や死別,退職や定年に伴う社会的孤立や経済状況の変化など,多種多様な喪失体験や状況の変化が出現してくる.高齢者でみられる身体症状や心気的訴えには,加齢に伴うこれらの要素が密接に関与している.したがって,高齢者の診療に際して,医師,とくに精神科医は,その訴えや異常所見の背景に潜む生物・心理・社会的要因(bio-psycho-social factors)を十分考慮しながら,総合的な評価を行っていく必要がある.
キーワード 高齢者,自殺,老年期うつ病,不安障害,認知症
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論文名 身体的心気的訴えへの医療連携
著者名 粟田主一,井上由起子,佐野ゆり,野呂雅人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(2):185-189,2009
抄録 医療連携という文脈のなかで,身体的心気的訴えをもつ高齢者に精神科医療はいかにかかわるべきか.自験例を呈示したうえで,@精神医学的診断,A治療関係の再構築,B身体医学的管理,C地域支援体制の整備という4つの観点から考察を加えた.高齢者の不安・心気状態からの回復には,病態の多元的・構造的理解,安定した治療関係の維持,医療連携による身体医学的管理の継続,地域連携による社会的支援体制の整備が,重要な意味をもつことを強調した.
キーワード 心気症,うつ病,vascular MCI,医療連携,地域連携
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