老年精神医学雑誌 Vol.20-11
論文名 老年期の幻覚
著者名 鬼頭 恒,天野直二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(11):1209-1215,2009
抄録 老年期の幻覚妄想は状態像,症候群としての概念であり,特異的な疾患を意味するものではない.老年期に特有にみられる幻覚として,シャルル・ボネ症候群,遅発パラフレニー,体感異常症,レビー小体型認知症について症例を呈示し,説明を加えた.老年期の病態には,加齢性変化に加えて,心理的要因や環境要因の関与も考慮する必要がある.
キーワード 幻覚,シャルル・ボネ症候群,遅発パラフレニー,体感異常症,レビー小体型認知症
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論文名 老年期の妄想
著者名 忽滑谷和孝,笠原洋勇
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(11):1216-1223,2009
抄録 さまざまな人生経験を積んできた高齢者では,患者の取り巻く環境に影響を受け,物盗られ妄想,嫉妬妄想をはじめ,他の世代とは様相を異にした妄想を伴って精神科に受診されることを経験する.妄想状態を呈する高齢者の診断にあたっては,疾患に特徴的な妄想を熟知することは,臨床的に意義はある.しかし,他の多くの疾患でもみられることもあり,器質的要因,機能的要因,心因的要因の順に進めていくことを忘れてはならない.
キーワード diagnosis procedure,delusion,elderly,delusion of jealousy,delusion of theft
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論文名 老年期の抑うつ・アパシー
著者名 木村真人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(11):1224-1232,2009
抄録 老年期の精神症状として,抑うつとアパシーは非常に出現頻度の高い症候である.アパシーはうつ病でみられる意欲低下とは異なり,苦悩がなく,より器質的な要因や認知障害との関連が指摘されている.両症候は神経回路障害や神経伝達物質機能においても,一部共有しているとの指摘はあるが,病態生理学的には異なった病態と考えられている.治療的にも抑うつはセロトニン作動薬が効果を示すのに対して,アパシーではその効果が乏しく,ドパミン作動薬の有用性が報告されている.老年期に両症候を呈する脳卒中後うつ病を含めた血管性うつ病や神経変性疾患による両症候の議論などを中心に,最近の知見についても概説した.
キーワード 抑うつ,アパシー,血管性うつ病,神経変性疾患,SSRI induced apathy
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論文名 老年期の心気・不安
著者名 妹尾晴夫,堀口 淳
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(11):1233-1241,2009
抄録 老年期の心気・不安について,老年期心気症と老年期不安障害とに分けて述べた.老年期ではどちらの病態も身体的訴えが中心になることが多いため,最初から精神科を受診することは少ない.そのため,精神科受診時には,医原性に心気症状が悪化していることが多々みられる.治療者は,患者個人の老化という衰退過程と生への執着との調和を図り,人の生の自然過程への同一化を心がけることが求められる.
キーワード 老年期精神障害,心気症,不安障害,薬物療法,精神療法
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論文名 老年期の睡眠障害
著者名 内山 真
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(11):1242-1249,2009
抄録 老年期には,睡眠障害が増える.不眠症の頻度は若年成人の倍近くになる.加齢による睡眠構造の変化だけではなく,老年期特有の生活スタイルや心理社会的な問題が不眠症を引き起こしている場合も多い.さらに,レストレスレッグス症候群,周期性四肢運動障害,睡眠時無呼吸症候群などの身体的要因による睡眠障害の頻度が高くなる.うつ病による不眠が多くみられることも臨床的に重要である.高齢睡眠障害患者の臨床では,このような老年期の特性を踏まえておく必要がある.本稿では老年期に多くみられる睡眠障害について,症候から診断への手順を中心に解説する.
キーワード 不眠症,レストレスレッグス症候群,周期性四肢運動障害,睡眠時無呼吸症候群,レム睡眠行動障害
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論文名 老年期の記憶障害
著者名 杉山博通,数井裕光,武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(11):1250-1255,2009
抄録 日常臨床において,本人または介護者がもの忘れを訴え,受診してくる機会は多い.記憶障害を呈する疾患は多いが,それぞれ疾患ごとに記憶障害の性質とその程度,随伴する症候が異なる.その特徴を知ることは,診断を行ううえで有用であるだけでなく,患者の生活をサポートするうえで重要である.本稿ではまず記憶システムおよび記憶の評価方法について説明する.そして加齢に伴う記憶機能の低下の特徴,および代表的疾患の記憶障害の特徴について概説する.
キーワード 記憶障害,もの忘れ,健忘,認知症,記憶の評価
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論文名 老年期の意識障害;せん妄を中心として
著者名 千葉 茂,田村義之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(11):1256-1264,2009
抄録 精神医学的面接(初診時)において最も重要なことは,意識障害の有無を明らかにすることである.意識障害は,意識混濁(明識困難状態から昏睡まで),意識変容(多弁・多動,精神運動興奮,不安,幻覚・妄想など),意識狭窄(もうろう状態)に分類される.せん妄は,昏睡を除くすべての意識障害を一括する概念である.その診断基準(ICD-10)には,意識混濁,認知障害,活動減少または活動過剰,および睡眠障害が挙げられている.これらの症状は,急性・一過性・変動性を示すことから,現在症のみならず症状の経時的変化にも注意すべきである.とくに睡眠障害は,せん妄の初期症状である前せん妄のなかでも重要な徴候である.なお,老年期てんかんは見逃されやすいだけでなく,認知症やこれに合併するせん妄と誤診されやすいため,診断上とくに注意が必要である.
キーワード 高齢者,意識障害,せん妄,認知症,てんかん
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論文名 老年期の意識障害・けいれん発作;神経内科医の立場から
著者名 野村浩一,北村 伸
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(11):1265-1269,2009
抄録 意識障害は重篤な病態や疾患の存在を反映していることが多いので,緊急の全身管理施行と系統的な原因究明による正しい診断が求められる.とくに老年期における意識障害では,さまざまな病態が合併していたり,認知機能障害との鑑別を要することもある.一方,老年期のけいれん性疾患では,急性症候性発作と症候性てんかんが重要である.一般に老年期てんかんは薬物療法が有効であることが多いので,その前提となる正確な診断と病型分類は重要である.
キーワード 意識障害,上行性網様体賦活系,けいれん,症候性てんかん,複雑部分発作
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論文名 老年期の物質依存
著者名 西村伊三男,北林百合之介,福居顯二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(11):1270-1275,2009
抄録 老年期のアルコール依存とベンゾジアゼピン(BZ)系薬物依存が増加している.高齢者では飲酒の量と頻度が減少するため,アルコール依存は見過ごされやすい.なかでも老年発症型は治療への反応も良好であるため,SMAST-Gなどの診断スクリーニングテストによる早期発見が重要である.老年期ではBZ系薬物の臨床用量依存の頻度が高い.高齢者にBZ系薬物を用いる場合,高力価,短時間作用型の薬剤の投与は控えて,安易な長期投与を行わないなど慎重な薬物治療が不可欠である.
キーワード アルコール依存,薬物依存,SMAST-G,ベンゾジアゼピン,臨床用量依存
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