老年精神医学雑誌 Vol.20-10
論文名 なぜ神経心理学なのか;検査と定性的評価
著者名 鹿島晴雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1065-1070,2009
抄録 認知症の概念および認知症はそれぞれの疾患の症状の組合せの類型としてとらえるべきこと,定式化された神経心理学検査法の施行と結果の評価において留意すべき問題点につき述べた.また神経心理学的症状の定性的把握とそれに基づいて検査結果を評価することの重要性を強調した.さらに神経心理学における定量的アプローチと定性的アプローチにつき述べ,両者のアプローチの長所をあわせもつ中庸的アプローチにつき,Boston Process Approach of Neuropsychological Assessmentを取り上げ紹介した.
キーワード 認知症,神経心理学的評価
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論文名 初期記憶障害の特徴とその評価法
著者名 仲秋秀太郎,三村 將
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1071-1081,2009
抄録 初期の認知症および軽度認知障害(MCI)における記憶障害について,臨床的に重要と考えられる問題を概説した.いうまでもなく,記憶障害は初期認知症の日常生活に影響を及ぼし,またMCIの予後を予測する要因となるとも考えられ,治療者がその特徴や評価方法を把握しておく意義は大きい.さらに,介護者の抱える介護負担の問題やMCI患者への早期介入の導入を考えるうえでも,貴重な情報を提供すると考えられる.本稿では,まず,生活記憶の中心となる展望記憶の特徴に言及し,認知症とMCIに関する展望記憶に関する最近の知見を述べた.次に,MCIのアルツハイマー病(AD)への進行の予測因子として,どのような神経心理検査が有用かという点に関して,記憶検査を中心に概説した.最後に,病識の問題を取り上げた.病識は,初期のADとMCIにおける認知機能や行動障害と密接な関連があり,病識を評価することの重要性についてふれた.
キーワード アルツハイマー病,軽度認知障害,展望記憶,認知症への移行,病識,メタ記憶
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論文名 認知症に特有な言語症状とその評価;PEMA症候群,語間代,滞続言語
著者名 大東祥孝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1082-1085,2009
抄録 認知症の診療を行ううえで,正確な診断は最も重要である.その際,患者さんの「言動」に注意することが,基本となる.いわゆる「認知症スクリーニング」検査は,あとでよい.先に暫定的に臨床診断をつけ,それを補強するためにさまざまな「検査」を行うという構えを忘れてはならない.このことをrepresentativeに示す病像として,PEMA症候群,語間代,滞続言語を取り上げて,鑑別診断上の意義を指摘した.
キーワード PEMA,反復言語,反響言語,語間代,滞続言語
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論文名 緩徐進行性失語,語義失語の特徴とその評価法
著者名 一美奈緒子,橋本 衛,池田 学
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1086-1091,2009
抄録 Mesulam(1987)が提唱した原発性進行性失語(PPA)は,症候学的観点から進行性非流暢性失語(NFPA),意味性認知症(SD),logopenic progressive aphasia(LPA)の3群に分類される.このうちNFPAとSDは前頭側頭葉変性症(FTLD)の進行性非流暢性失語(progressive non-fluent aphasia ; PA)とSDにそれぞれ相当し,LPAは背景病理としてアルツハイマー病(AD)が想定されている.本稿ではFTLDの下位分類であるPAとSDに注目し,それらの特徴と評価法を概説する.SDについては言語症状で典型的にみられる語義失語を中心に述べ,最後に近年注目されているLPAについて簡単にふれる.
キーワード 原発性進行性失語,進行性非流暢性失語,意味性認知症,logopenic progressive aphasia(LPA),語義失語
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論文名 読み書きの障害;失読・失書の特徴とその評価法
著者名 下村辰雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌, 20(10):1092-1098,2009
抄録 左角回またはその周辺の病変で純粋失読,純粋失書,失読失書という異なった読み書き障害が生ずる.純粋失読の病巣は左角回後方で,視覚野よりの部位にあり,左角回に入力する視覚系の障害である.純粋失書の病巣は左角回よりやや上前方で,左角回から運動系に向かう出力系の障害が示唆される.左角回病変では失読失書が生じ,漢字にも仮名にも障害がみられ,それに加えて,左下側頭回後部病変では漢字に強い失読失書が生ずる.
キーワード 失読失書,純粋失読,純粋失書,漢字仮名問題
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論文名 認知症にみられる失行症の特徴とその評価法;とくに肢節運動失行を中心に
著者名 小早川睦貴,河村 満
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1099-1102,2009
抄録 肢節運動失行は動作の拙劣さを主特徴とする病態で,中心領域付近の病巣と関連している.変性性疾患において,緩徐進行性に肢節運動失行を中心とした行為障害が生じることがあり,これは原発性進行性失行(primary progressive apraxia ; PPAprx)と称される.PPAprxは一側性に優位なことが多く,錐体外路症状や前頭頭頂葉の病変を示唆する高次脳機能障害を併発し,大脳皮質基底核変性症との関連が考えられる.
キーワード 肢節運動失行,緩徐進行性失行,大脳皮質基底核変性症
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論文名 着衣失行と構成失行の特徴とその評価法
著者名 中野倫仁
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1103-1106,2009
抄録 着衣失行と構成失行は認知症診療の基本的チェック項目である.着衣失行は病期の進行とともにみられることが多く,介護者に対するストレス要因として重要である.構成失行はとくにアルツハイマー型認知症の初期症状および進行を予測する要因である.またレビー小体型認知症でも高頻度に出現する.構成失行の評価は,模写,積木などの構成課題,姿位模倣などで行われるが,重症度などにより課題を選択する必要がある.
キーワード 着衣失行,構成失行,模写,積木,姿位模倣
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論文名 他人の手徴候の特徴とその評価法
著者名 兼本浩祐,前川和範,大島智弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1107-1111,2009
抄録 広義の他人の手徴候は,主に左手に出現し,右頭頂葉上部の行為を促す中枢の脱抑制に起因すると考えられる他人の手徴候(狭義)と拮抗失行,主に右手に出現し,把握現象の延長線上にあり,優位側前頭葉内側面と脳梁の障害が並存するときに起こる道具の強迫的使用があることを紹介した.主要な背景疾患は,前大脳動脈領域の脳梗塞および大脳皮質基底核変性症である.
キーワード alien hand,forced utilization behavior,diagonistic dyspraxia,grasping reflex,corpus callosum
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論文名 視知覚障害とその評価法
著者名 平山和美,森 悦朗
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1112-1119,2009
抄録 網膜から高次視覚関連皮質までの視覚情報処理の流れを大細胞系,小細胞系,微小細胞系,背側の流れ,腹側の流れなどの概念に基づいて略述した.レビー小体型認知症やパーキンソン病の高空間周波数コントラスト感度の障害,色覚障害,錯綜図認知など形態情報の処理障害や動揺視などの錯視,アルツハイマー病の低空間周波数コントラスト感度障害,バリント症候群やオプティック・フローの知覚障害などを,この枠組みに位置づけて紹介した.
キーワード レビー小体型認知症,パーキンソン病,アルツハイマー病,前頭側頭葉変性症,背側の流れ,腹側の流れ
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論文名 半側空間無視の特徴とその評価法
著者名 石合純夫
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1120-1127,2009
抄録 半側空間無視とは,主に右半球の脳血管障害後に身体から見て左側の空間をうまく処理できなくなる症状である.検査法として,抹消試験,模写/描画試験,線分二等分試験があり,BIT行動性無視検査に含まれる.認知症では,典型的な半側空間無視症状はまれであるが,アルツハイマー病において,非対称性の頭頂葉機能低下を反映して,線分二等分が偏倚し,絵の説明課題において一側の空間性注意障害が生じることが知られている.
キーワード 半側空間無視,BIT行動性無視検査,空間性注意障害,アルツハイマー病,認知症
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論文名 バリント症候群,ゲルストマン症候群とその評価法
著者名 高屋雅彦,数井裕光,武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1128-1132,2009
抄録 臨床的にバリント症候群とゲルストマン症候群の各症候を認めやすい認知症と認めにくい認知症があるため,両症候群の評価は認知症の鑑別診断に役立つ可能性がある.しかし実際の診療場面で両症候群の有無を鑑別診断の助けにすることは少ない.それよりは,両症候群の評価を通して得られた知見を介護者に伝え,認知症患者の生活支援に役立ててもらうことのほうが重要である.
キーワード バリント症候群,ゲルストマン症候群,変性性認知症,アルツハイマー病,生活支援
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論文名 遂行機能障害の特徴とその評価法
著者名 穴水幸子,加藤元一郎
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,20(10):1133-1138,2009
抄録 遂行機能とはヒトにとって最も重要な「目的をもった一連の活動を有効に成し遂げるために必要な機能」とされる.その概念は主要な4つの要素から構成されている(目標の設定,計画の立案,目標に向かって計画を実際に行うこと,行動を効果的に行うこと).遂行機能障害は典型的には前頭葉機能損傷患者において認められるが,近年は他部位の局在性脳損傷,脳外傷,脳炎・脳症後遺症,認知症,アルコール依存症,機能性精神疾患における遂行機能障害の存在や程度が日常生活上の予後因子として重要と指摘されている.臨床医としては,外来や病棟生活内では見落としがちなその障害を患者本人と家族から丁寧に聴取して日常生活行動を把握すること,また適切な評価法を選択して施行していく姿勢が重要と考える.本稿においてはまず遂行機能障害の概念・有用性を示し,次に遂行機能障害症候群の評価法を3つに区分し説明をしたい.また最後に遂行機能障害者への認知リハビリテーションについてもふれてみたい.
キーワード 遂行機能障害,前頭葉機能障害,ワーキングメモリー,認知症,認知リハビリテーション
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