老年精神医学雑誌 Vol.16-3
論文名 前駆状態の病態概念
著者名 武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(3):289-295,2005
抄録 多くの痴呆性疾患は脳の老化過程と密接に関係している.正常の脳の老化過程があり,病的な老化として痴呆性疾患が発症するとすれば,正常な老化と病的な老化をどのように区分するかという問題があるが,生理的な老化とはなにかという命題に対する解答は不十分といわざるをえない.多くの痴呆性疾患の発症は緩徐であり,いつのまにか発症する.このような初期のゆっくりした病理過程は,症状が出揃ってからの病態とかなり趣を異にする.この発症の緩慢さは,そのまま前段階の診断を困難にし,前駆状態の始まりの時点を特定することを困難にしている.また,前駆状態の終末をどこで区切るかという点も大きな問題となる.痴呆という診断を下すための診断基準として社会的機能の低下が必要とされるが,個人に必要とされる社会的機能が異なるからである.本稿では前駆状態の始まりと終わりをどのように規定すべきかについて論じる.
キーワード 痴呆,アルツハイマー病,認知障害,軽度認知障害(MCI),加齢に伴う認知障害(AACD)
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論文名 軽度認知障害(MCI)
著者名 谷向 知,朝田 隆
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(3):296-301,2005
抄録 軽度認知障害(MCI)は,痴呆発症の早期診断や予防介入を行うためにとの観点からきわめて重要な概念である.また,痴呆発症のメカニズムや危険因子を検討するうえでも重要な状態であるといえる.しかし,MCIという用語は必ずしも痴呆の前駆状態を表すものではなく,抑うつ状態なども含めた生理的な認知機能の低下ではなく痴呆でもない状態に使用されていることもある.また,統一した診断基準を用いたとしても,臨床と疫学とでは少し異質の集団をとらえている可能性があることに留意する必要がある.
キーワード 軽度認知障害(MCI),前駆状態,評価尺度,もの忘れの訴え,抑うつ状態
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論文名 抑うつ状態
著者名 粟田主一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(3):302-309,2005
抄録 抑うつ状態は高齢者の痴呆発症リスクを高め,軽度認知障害(MCI)や痴呆のない血管性認知障害(VCIND)の痴呆への移行リスクを高める.老年期の抑うつ状態で,持続性の認知障害や海馬萎縮が認められる場合,実行機能障害,精神運動緩慢,皮質下虚血性病変が認められる場合は,痴呆の前駆症状としての意義をもつ老年期抑うつ状態の下位群である可能性があり,痴呆の予防や予後改善を視野にいれた治療を考慮にいれる必要がある.
キーワード 老年期抑うつ状態,痴呆の前駆症状,痴呆発症リスク,軽度認知障害,血管性認知障害
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論文名 アルツハイマー病初期にみられる性格変化
著者名 斎藤正彦
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(3):310-314,2005
抄録 アルツハイマー病および関連する痴呆性疾患の前駆症状または初期の症状としての性格変化について最近の文献をレビューした.痴呆性疾患患者の多くに,性格変化が観察されるという報告が多く,うつ症状に関連したapathyとの異同が検討されるような性格特徴が報告されている.性格変化が痴呆性疾患の前駆症状といえるか否か,性格変化の原因が器質的なものであるか心理的なものであるかについては,十分な情報の蓄積が待たれる.
キーワード アルツハイマー病,性格変化,前駆症状,痴呆性疾患,うつ状態
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論文名 アルツハイマー病の前駆状態
著者名 橋爪敏彦,笠原洋勇
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(3):315-321,2005
抄録 アルツハイマー病(AD)は,臨床症状が発現する数年もしくは10年以上も前から神経細胞やシナプスに異常が生じているとされている.そのADの前駆状態を意識した概念としてMild Cognitive Impairment(MCI)が提唱された.ところが現時点でMCIと定義されるところでは,必ずしもADに進展しない場合がある.本稿ではMCIからADに進展する危険因子を検討する.
キーワード 前駆状態,アルツハイマー病, Mild Cognitive Impairment, 早期診断
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論文名 血管性痴呆の前駆症状
著者名 岡田和悟
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(3):322-328,2005
抄録 痴呆性疾患治療ガイドラインに沿って血管性痴呆の診断基準・重症度・病型について解説した.血管性痴呆の前駆・初期症状のなかでも,前頭葉機能に注目した認知機能検査と行動学的心理学的症候としての意欲低下が重要であることを指摘した.また早期介入の立場から提唱された血管性認知障害の概念を紹介し,進展防止策について言及した.
キーワード 血管性痴呆,前駆症状,前頭葉機能検査,意欲低下,血管性認知障害
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論文名 前頭側頭型痴呆の前駆状態と初発症状
著者名 品川俊一郎,池田 学
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(3):329-335,2005
抄録 前頭側頭型痴呆(FTD)の患者は,前頭葉機能の障害に伴い脱抑制や常同行動などの特徴的な症状を呈する.しかしその前駆状態の同定は困難であり,FTDの前駆症状についての知見はほとんどない.FTD患者の介護者を対象とした初発症状の調査においては,初発症状として記憶障害や言語症状は認められず,社会行動の障害,とくに自発性低下と常同行動が並存して多く認められた.これは前頭葉機能の低下によって発動性が低下し,基底核への抑制が外れて常同行動が出現したとも理解できる.このような初発症状の検討は早期診断にとって重要であり,早期の介入へとつながる.
キーワード 前頭側頭型痴呆,前駆状態,初発症状,自発性低下,常同行動
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