老年精神医学雑誌 Vol.16-11
論文名 高齢者における性と健康
著者名 内野英幸
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(11):1225-1231,2006
抄録 高齢社会の性は,男女における性の違いや加齢に伴う個々人の性的変化の較差,結婚生活を含めたパートナーとの関係性の問題などが絡み,多様であり,そのアプローチも一律にはいかない.高齢者の性と健康とは密接な関係がある.世界保健機関(WHO)は,1975年に性を健康の視点から取り組むことを開始した.性の健康(セクシュアル・ヘルス)とは,WHOによれば性に関して身体的,情緒的,精神的そして社会的に良好な状態と定義されている.本稿では,ヘルス・プロモーションの観点から高齢者への性教育の重要性を提起した.
キーワード 高齢者の性,性の健康,性教育,性行動,ヘルス・プロモーション
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論文名 高齢男性の性と性行動;Andrologyの立場から
著者名 熊本悦明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(11):1232-1243,2006
抄録 男の性を,性行動だけからみてほしくない.男を創る基本的因子であるandrogen,少なくとも臨床的に測定できるfree testosteroneなどを,十分勘案しながら,生物学的にみた男性を,全体的に観察分析してほしいと主張したい.今回は,そのAndorologyの立場から序説的に男性ことに高齢男性の性問題を論じてみた.まず,女性の性を考えるとき,月経を抜きにできないように,男性の性を論ずるとき,夜間睡眠時勃起現象・早朝勃起を語らずしてなにを言うか,というところから始めてみたい.
キーワード free testosterone,DHEA,早朝勃起,夜間睡眠時勃起現象,行動活性,aggressiveness
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論文名 高齢者の性行動;女性学の立場から
著者名 野末悦子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(11):1244-1253,2006
抄録 高齢者の性行動についてのセクシュアリティ研究会や,NHK「日本人の性」プロジェクトおよび筆者らによる実態調査の一部を紹介した.高齢女性にとって性行動も含めてそのQOLを高めるには,今後われわれになにが求められているかを考えるために,現在行われている医療および代替療法などの一端を報告した.
キーワード 高齢女性,性行動,実態調査,ホルモン補充療法(HRT),代替療法
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論文名 高齢者の性的行動と介護;実態とその対応
著者名 荒木乳根子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(11):1254-1260,2006
抄録 介護の現場では要介護高齢者のさまざまな性的行動が問題になっている.要介護高齢者の性的行動をどのように理解し対応するかはQOLにかかわる大切な問題である.本論ではさまざまな性的行動を@相思相愛・合意のある性的行動,A一方的な性的行動,B職員に対する性的行動,C家族に対する性的行動に分けて,実態と理解,対応について述べた.性的行動を抑えようとするのではなく,性的行動の背景にある内的・心理的欲求を理解し,こたえることが必要だと考える.
キーワード 高齢者,介護,性行動,行動障害,セクシュアリティ
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論文名 高齢者にみられる嫉妬妄想
著者名 森 秀樹,松木秀幸,岸 泰宏,堀川直史,深津 亮
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(11):1261-1268,2006
抄録 病的嫉妬ないし嫉妬妄想は心理的嫉妬−病的嫉妬−妄想的嫉妬−嫉妬妄想という広いスペクトルの一部を構成する.そしてアルコール依存症,老年期認知症,気分障害(躁ないしうつ病),パラノイア,統合失調症など広範な精神疾患を背景に出現するが,老年期精神障害では出現頻度が高い.代表的な疾患でみられる嫉妬妄想について概観した.加齢に伴う精神機能の衰退,性機能を含む身体的な諸能力の衰え,社会心理的状況の変化により病的嫉妬形成の素地が準備されていると考えられる.アルコール性嫉妬妄想で提言された「逆説的性障害」のほか,想定されているいくつかの発生機序について言及した.病的嫉妬ないし嫉妬妄想によって暴力行為や犯罪に及ぶケースがあるため,病的嫉妬については臨床的に細心の注意が必要であることを強調した.超高齢化社会を迎えつつあるわが国において,病的嫉妬ないしは嫉妬妄想はますます重要な疾患となると考えられる.
キーワード 高齢者,老年期認知症,病的嫉妬,逆説的性障害,発生機序
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論文名 老年期にみられる多様な性行動
著者名 針間克己
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(11):1269-1273,2006
抄録 老年期における多様な性行動には,@正常の性行動への周囲の誤解,A性機能の障害による代償行為,B各種疾患の一症状として,C薬物性,Dパラフィリアの場合などがある.性同一性障害においては,加齢に伴い女性受診者はまれとなるが,男性受診者はある程度の数のものがいる.老年期の同性愛においては,孤立化や否定的な自己評価という問題を抱えうる.老年期における多様なセクシュアリティのあり方には,「異常だ」とレッテル貼りをするのではなく,その背景,原因,意味を探り,よりよく生きていくような対応や支援を考えていくべきであろう.
キーワード 高齢者,性行動,パラフィリア,性同一性障害,同性愛
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論文名 高齢者にみられる性犯罪
著者名 山上 皓,渡邉和美
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,16(11):1274-1280,2006
抄録 わが国における性犯罪検挙人員は,この30年間にほぼ半減しているが,この間に検挙人員中に高齢者(60歳以上を対象)の占める比率は約6倍に増加している.高齢(65歳以上)の性犯罪検挙人員は,この15年間で急増しており,強制わいせつではその数は18倍にも及んでいる.犯罪統計の分析によれば,高齢者による性犯罪には次のような特徴がある.すなわち,単独で,年少者を対象とし,日中に犯行に及ぶことが多い.被害対象は罪種により異なる傾向があり,強姦では知人が対象とされることが多いが,強制わいせつや略取・誘拐では無関係の子どもが対象とされる比率が高くなる.いずれの場合でも凶器使用率は低く,被害者を巧みにコントロールする場合が多い.高齢になって突発的に犯行に及ぶ性犯罪者においては,若年の性犯罪者の場合と異なり,精神障害の発症がかかわる場合が多く,また,男性性の喪失を代償しようとする心理力動が重要な役割を果たす場合もあるが,いずれにせよ,精神医学的治療が比較的有効である.これに対し,子どもに性的虐待を繰り返すような事例においては,むしろ若年の性犯罪者と共通するところが多く,精神疾患の罹患率は低く,巧妙な犯行の態様が露見を遅らせる役割を果たしている場合が多い.高齢者において,比較的高い頻度でみられる犯罪として,欧米諸国では古くから,強制わいせつ等性犯罪の問題があげられていた.わが国においては従来みられなかったことであるが,近年の動向は,わが国においても欧米諸国と同様の現象が起こりつつあることをうかがわせる.とくに,高齢者によって密かに繰り返される性的虐待については,より厳しい予防策,対応策を検討する必要があると考える.
キーワード 高齢者,性犯罪,強姦,強制わいせつ,被害者
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