老年精神医学雑誌 Vol.15-11
論文名 老年期の気分障害の疫学
著者名 朝田 隆,水上勝義,日高 真
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,15(11):1221-1225,2004
抄録 老年期の気分障害の疫学を総説した.欧米の報告では,老年期うつ病全体の時点有病率は10〜15%,大うつ病は2%程度とされる.これに比して日本の調査における有病率は低い.この違いには人種や地域の差,診断方法がかかわる可能性がある.うつ病の危険因子として,身体要因,うつの既往,死別などが指摘されている.なお双極性障害の有病率・発生率とも老年期には低いとされるが,器質因との関係が注目されている.
キーワード 老年期,大うつ病,小うつ病,躁病,疫学
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論文名 老年期うつ病の特徴;認知機能からみた臨床像の再検討
著者名 三村 將,石ア潤子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,15(11):1226-1234,2004
抄録 老年期うつ病における認知機能低下は,「うつ病」による因子と「加齢」による因子が相乗的に影響し,精神運動反応速度・記憶・問題解決能力(遂行機能)などを中心に障害され,さまざまな日常生活場面で影響が現れる.また,老年期うつ病では潜在性脳梗塞を認めることが多く,いわゆるMRI-definedの血管性うつ病の症例とオーバーラップする.近年ではSPECTやPETなどの脳機能画像研究により,老年期うつ病患者における脳血流低下や血流の不均衡が病態と関与していると指摘されている.さらに最近ではうつ病の治療経過における脳血流の経時的な変化が報告されてきており,今後も脳機能画像と臨床症状や認知機能の関係について,縦断的検討の蓄積が必要と思われる.
キーワード 前頭葉機能,遂行機能障害,うつ遂行機能障害症候群,潜在性脳梗塞,脳機能画像
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論文名 老年期における双極性障害の特徴について
著者名 上山貴子,梅津 寛,佐藤 新,五味淵隆
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,15(11):1235-1242,2004
抄録 東京都立松沢病院で治療を受けている24例の老年期双極性障害患者において,とくに躁状態について調査した.狭義の老年期初発例については症例がまれであり,身体合併症が認められた2例の報告にとどまった.臨床症状としては多弁,睡眠障害,易怒性を多く認め,観念奔逸,行為心拍といった症状はまれであった.躁状態に前駆するライフイベントが存在したが,初発相にのみ関与していた.長期間寛解を保っていた症例において,脳梗塞等の器質性疾患の合併を誘因として再燃するものが存在した.加齢に伴い間歇期間が短くなり,治療抵抗性を示す例があった.
キーワード manic-depressive illness, longitudinal course, aging, secondary mania
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論文名 老年期うつ病・うつ状態の経過
著者名 楯林義孝
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,15(11):1243-1248,2004
抄録 老年期のうつ病とうつ状態の経過について最近の海外の文献を中心にレビューした.老年期には臨床的うつ病(大うつ病,気分変調症)よりも閾値下うつ病や小うつ病とよばれる非定型なうつ状態がより多く認められ,臨床的うつ病と同様,予後は不良で何らかの治療や対策が必要と考えられた.とくに男性の場合,死亡危険率が高くなる傾向,女性の場合,認知障害を伴い痴呆へ移行する傾向があることが認められた.
キーワード 老年期うつ病,閾値下うつ病,認知障害,アルツハイマー病
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論文名 うつ病性仮性痴呆(depressive pseudodementia)の再考
著者名 福田崇宏,天野直二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,15(11):1249-1255,2004
抄録 うつ病性仮性痴呆(depressive pseudodementia)は可逆的で治療可能なことから,痴呆(とくにアルツハイマー病)との鑑別診断の観点から研究されることが多かった.しかし,うつ病性仮性痴呆における認知・記憶障害の予後がそれほどよくはなく,アルツハイマー病に移行する例も少なくないことから,うつ病性仮性痴呆とアルツハイマー病とを連続体(スペクトラム)としてとらえる研究者もいる.最近では,本文で述べるように両者が病態生理学的に一部共通する点があることも解明されつつある.本稿ではこれまでの研究を概観しつつ,両者をスペクトラムとして縦断的にとらえることの有用性について論じた.
キーワード うつ病性仮性痴呆,うつ病,痴呆,アルツハイマー病
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論文名 血管性うつ病(vascular depression)
著者名 木村真人,下田健吾
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,15(11):1256-1262,2004
抄録 血管性うつ病は高齢者のうつ病に無症候性脳梗塞の合併が多いことから1997年に提唱された概念であるが,そのなかには脳卒中後うつ病も包含されている.病態は複雑であるが,発症メカニズムとしては左前頭葉障害などの局所病変仮説と閾値仮説が想定され,皮質−線条体−淡蒼球−視床−皮質回路の関与が示唆されている.治療としては,脳血管障害に対する予防・治療とともにSSRIやSNRIなどによる抗うつ薬治療が重要である.
キーワード 血管性うつ病,脳卒中後うつ病,高齢うつ病,抗うつ薬治療
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論文名 老年期うつ病の治療;新しい抗うつ薬を中心に
著者名 小林直人,田子久夫,丹羽真一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,15(11):1263-1270,2004
抄録 老年期うつ病は,発症要因が複雑であり,症状に基づくQOLの障害や認知障害が認められることから,その治療はむずかしいとされている.これらの問題に対してSSRIやSNRIなどの新規の抗うつ薬の有用性が明らかにされつつある.また,痴呆性疾患とうつ病の共存性が注目されており,新規の抗うつ薬に加え,認知機能改善薬の効果が期待されている.老年期うつ病の治療法としては薬物療法単独だけでなく,心理社会的療法を統合させるなどして,より有効な治療効果を追求すべきである.
キーワード 老年期うつ病,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors;SSRI),セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin-noradrenaline reuptake inhibitors;SNRI),生活の質(Quality of Life;QOL),ドネペジル
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論文名 老年期うつ病の治療;修正電気けいれん療法を中心に
著者名 粟田主一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,15(11):1271-1279,2004
抄録 高齢者人口と自殺者数の急増に直面しているわが国において,身体疾患を合併する重症かつ虚弱なうつ病高齢者に対する安全かつ効果的な電気けいれん療法(ECT)の開発・普及は,今日の老年精神医学の重要な臨床課題である.本稿では,過去の文献をレビューし,老年期うつ病に対する「現代のECT」の有効性と安全性を検証した.また,老年期うつ病に対するECTの技術的洗練を目指して,安全対策と治療変数の適正化の問題について解説を加えた.
キーワード 老年期うつ病,電気けいれん療法(ECT),有効性,安全性,治療変数の適正化
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