論文名 | 脳の老化は個体の老化にどう影響するか |
著者名 | 松井敏史,荒井啓行,岡村信行,丸山将浩,丹治治子,根本 都,冨田尚希,松下幸生,樋口 進,樹神 學,佐々木英忠 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,14(8):961-968,2003 |
抄録 | 脳の病的老化(疾患)がいかに個体の病的老化に関与するかを検討した.高齢者では無症候性脳梗塞を有する者が珍しくなく,軽度のもの忘れの自覚のみを有する者でも将来アルツハイマー病に進展する者がいるなど,脳の病的老化の素地が潜行性に進んでいる場合がある.いったん脳の疾患が発症すると個体の生命予後に悪影響を与える.すなわち抑うつ症状や痴呆が背景にあると疾患にかかりやすくなり,回復も悪い.さらに,高齢者の4大死因のひとつである肺炎は高齢者になるとその割合が増大するが脳の基底核梗塞によって引き起こされる嚥下・咳反射の低下が重要な発症機序である.その治療も嚥下・咳反射に関与するドーパミン―サブスタンスP神経系の賦活という脳の病的老化に対して向けられる. |
キーワード | 老化,脳血管障害,痴呆,うつ,誤嚥性肺炎 |
論文名 | 脳の老化と神経細胞の変化 |
著者名 | 水谷俊雄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,14(8):969-976,2003 |
抄録 | 加齢に伴う神経細胞の変化について2つのことを述べた.(1)ある神経核を構成する2種類の神経細胞は両者間にある一定の数量的比率に従って減少するメカニズムがあると考えられるが,大脳皮質においても機能的,解剖学的最小単位である細胞柱を維持するように神経細胞が減少していると考えられる.(2)神経細胞の消失過程では,ほとんどの神経細胞は単純萎縮を経て消失するが,第二のプロセスとして腫大化を経る経路があると考えられる. |
キーワード | 老化,大脳皮質,神経細胞,細胞柱,腫大化 |
論文名 | 脳の老化とグリア細胞の変化 |
著者名 | 池田研二 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,14(8):977-983,2003 |
抄録 | 脳の老化に伴ってグリアにも加齢性変化が起こる.アストロサイト数やglial fibrillary acidic protein(GFAP)発現量が増加し,細胞体は肥大してグリアフィラメントが増加するとともに二次性リソソームに由来する蓄積物が増加する.グリオーシスの強い領域にはタウ凝集物に富んだ反応性グリアが現れる.オリゴデンドログリアにも加齢変化が起こる.ニューロン・グリア相互作用からグリアの生理的老化が脳機能に及ぼす影響が注目される.変性疾患や病的状態時にはタウ,α-シヌクレインの異常凝集物がグリアにも封入体として蓄積することがあり,それぞれの疾患の病態・病理を形成する. |
キーワード | GFAP,ニューロン・グリア相互作用,貪食,タウ,α-シヌクレイン |
論文名 | 脳の老化と知的機能 |
著者名 | 小森憲治郎,田辺敬貴 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,14(8):984-992,2003 |
抄録 | 近年MCIとよばれる,高齢者の記憶障害を中心とした軽度の認知機能低下が注目を集めている.痴呆に対する早期からの治療的介入や予防といった観点から,短期間で数多くの研究報告がみられる.しかしこの概念の使用に関しては問題点が指摘されており,概念そのものも変遷を重ねている.また認知機能検査や画像検査による過剰なスクリーニングという事態も危惧され,痴呆の評価に際して症候学の重要性が強調される.本稿では臨床でよく使用される認知機能検査の特徴と留意点について述べる. |
キーワード | 老化,痴呆,MCI,認知機能検査,検出力,特異性 |
論文名 | 脳の老化と気分障害・人格障害 |
著者名 | 穴水幸子,鹿島晴雄 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,14(8):993-998,2003 |
抄録 | 高齢化社会を迎え,老年期の感情や人格,性格傾向を知ることは精神科医療において必須なものとなっている.またそれは社会・隣人・肉親,ひいては自分自身を知るということでもあろう.人生の後半期をどのように乗り切り,また実らせていくか.このことを考えるために,まず老化に伴う神経系の生理的変化と痴呆症などに起こる病的変化の違いを述べ,機能性の老年期うつ病,器質性変化に伴う気分障害,神経症,人格障害などについてまとめた. |
キーワード | 老化,気分障害,人格障害,脳血管障害,アルツハイマー型痴呆 |
論文名 | 脳の老化と神経変性疾患;アルツハイマー型痴呆を中心に |
著者名 | 山田正仁 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,14(8):999-1007,2003 |
抄録 | 脳のエイジングと関係の深い神経変性疾患についてアルツハイマー型痴呆を中心に述べた.“正常”の脳老化過程をたどるか,あるいはエイジングを基盤に神経変性疾患の発症に至るかは,神経系の生存や修復を促進し神経変性を防御する因子と,神経変性を促進し発症へと導く危険因子とのバランスによるものと考えられ,それらの因子について概説した. |
キーワード | 脳老化,エイジング(加齢),神経変性,アルツハイマー型痴呆,危険因子 |
論文名 | 幹細胞系と脳機能再生の可能性;幹細胞システムと神経変性疾患 |
著者名 | 森 裕,武田雅俊 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,14(8):1008-1015,2003 |
抄録 | 神経細胞に分化させることができる神経幹細胞や胚性幹細胞などの幹細胞を神経・精神疾患の治療に利用できないかという試みが広く内外の研究室で行われるようになってきている.また,高齢化社会の到来とともに増加するであろうと予想される痴呆性疾患やパーキンソン病などへの幹細胞の臨床応用への期待が社会的要請にも後押しされて大きく膨らんできている.すでに語り尽くされた感があるが,本稿ではいま一度,神経幹細胞,胚性幹細胞,間葉系幹細胞といわれる骨髄間質細胞などの「幹細胞システム」について概説し,さらに,神経・精神疾患のなかで最も幹細胞システムの応用が有望視されている神経変性疾患について,その可能性について言及する. |
キーワード | 神経幹細胞,ES細胞,神経変性疾患,異常タンパク質 |