老年精神医学雑誌 Vol.14-2
論文名 血管性痴呆再考
著者名 松下正明
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(2):163-168,2003
抄録 最近再び血管性痴呆が脚光を浴びるようになってきた.その理由はなにかということを論じ,ひとつには種々の診断基準の提起とそれぞれの検証,それに基づく疫学的調査があることを指摘したが,しかし,最大の理由として,アルツハイマー型痴呆研究の進歩によって,アルツハイマー型痴呆の病理学的背景あるいは危険因子に血管因子,循環障害因子が関与していることが明らかにされ,それと並行して,血管性痴呆の病態との類似性,相似性が議論されるようになってきたことがあげられる.しかし,それらの研究成果は事実として受け入れるべきだとしても,血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆には同一の疾患過程が存在するという,単一疾患仮説には同意しないことを強調した.
キーワード 血管性痴呆,アルツハイマー型痴呆,血管性痴呆の診断基準,アルツハイマー型痴呆の血管因子
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論文名 血管性痴呆の疫学問題;診断基準の問題点と神経基盤に関する考察
著者名 目黒謙一,石井 洋
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(2):169-180,2003
抄録 "(1)血管性痴呆(VaD)にはいくつかの診断基準があるが基準間の一致率は良好ではない.その最大の理由は痴呆と因果関係が推定される血管病変の確認の困難さにある.MRI精度の向上は,微小な血管病変を描出可能にしたが,それをもってVaDという診断を安易につけてはならない.
(2)田尻プロジェクトの結果,65歳以上の高齢者全体における痴呆の有病率は8.5%で,原因としては最も厳密な診断基準であるNINDS-AIRENを用いた場合VaDは多くなく,脳血管障害を伴うアルツハイマー病が多かった.
(3)VaD概念について2つの極論が可能である.ひとつはVaDはない,というもので脳梗塞による複数の認知機能障害をあえて痴呆の範疇にいれる必要はないという考えである.もうひとつは,血管病変の意義を広く強調するものである.それらについて神経基盤をあわせて考察した."
キーワード 血管性痴呆,田尻プロジェクト,有病率,NINDS-AIREN
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論文名 血管性痴呆の診断
著者名 緒方 絢,山西博道
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(2):181-185,2003
抄録 血管性痴呆の診断法,分類,名称を国際的に統一する目的で,NINDS-AIREN診断基準が提唱された.この診断基準では次の点が強調されている.(1)血管性痴呆の原因,症候,経過の多様性,(2)脳卒中と痴呆発症の時間的関係の重要性,(3)脳の画像検査と神経心理検査の重要性,および(4)臨床と病理所見をもとにした診断の確診度の設定.皮質下性血管性痴呆においては脳病変と症候が比較的均一であることから,NINDS-AIREN診断基準の一部に修正を加えた皮質下性血管性痴呆の診断基準が提唱されている.
キーワード 血管性痴呆,皮質下性血管性痴呆,診断基準
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論文名 混合型痴呆問題をめぐって
著者名 平井俊策
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(2):186-192,2003
抄録 混合型痴呆の定義,概念,頻度については,まだ議論が多い.ここでは混合型痴呆を,アルツハイマー病(AD)性変化と血管性痴呆(VaD)を起こしうる病変がともに認められ,そのいずれが痴呆の主因か判定できないか,あるいは両変化があって,それぞれ単独では痴呆を起こしえないが,その併存により痴呆を呈した病態と定義し,生前からの長期にわたる認知機能,神経所見,画像所見の継時的な経過(temporal profile)と,両変化の病理学的な形態計測的検索の両者を総合して,はじめて正しく診断できることを述べた.
キーワード 混合型痴呆,アルツハイマー病,血管性痴呆,時間的関連,形態計測的研究
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論文名 ビンスワンガー型痴呆の成因
著者名 山崎峰雄,片山泰朗
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(2):193-197,2003
抄録 ビンスワンガー型痴呆の白質病変形成には細動脈硬化と高血圧症が非常に重要な役割を果たしている.サイトカインによるオリゴデンドログリアの傷害やアポトーシス類似の細胞死が関与している可能性も示唆されているが,組織・細胞レベルでの成因に関しては不明な点が多く,さらにさまざまな手法でのアプローチが必要である.
キーワード ビンスワンガー型痴呆,高血圧,細動脈硬化,leukoaraiosis
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論文名 血管性痴呆の治療をめぐって
著者名 吉井文均,篠原幸人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(2):198-207,2003
抄録 血管性痴呆の治療を,(1)発症の予防,(2)症状に対する治療,(3)リハビリテーション・介護の3つに分けて述べた.発症予防には脳血管障害の危険因子に対する治療と抗血小板薬や抗凝固薬を用いた薬物治療があり,症状に対する治療は痴呆の中核症状に対する治療と随伴症状に対する治療に分けられる.中核症状に作用する薬物が少ない現状では,血管性痴呆患者のQOLを向上維持するためには,リハビリテーションや介護,療養環境の調整も重要な課題である.
キーワード 血管性痴呆,多発性脳梗塞,薬物治療,ドネペジル,認知リハビリテーション
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論文名 血管性痴呆研究の動向
著者名 中島健二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(2):208-212,2003
抄録 血管性痴呆研究はあらたな局面にはいった.これまで漠然と脳卒中後の精神症状としての痴呆様症状やうつ状態などを一括して「(脳)血管性痴呆」と称してきたが,アルツハイマー病研究が展開するにつれ,この要因として(脳)血管性因子がかなり深く関与していることが明らかになった.したがって発症要因をアルツハイマー病側からたどっていくと血管性痴呆とぶつかることになるかもしれない.血圧,大脳白質病変,心疾患との関係などまだ解明しなければならない課題は多い.
キーワード 血管性痴呆,アルツハイマー病,危険因子
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