老年精神医学雑誌 Vol.14-11
論文名 痴呆の遺伝因子
著者名 紙野晃人,武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(11):1331-1337,2003
抄録 痴呆は異質性の高い疾患である.その主要な原因疾患は血管性痴呆とアルツハイマー病(AD)である.ADは遺伝因子が環境因子よりも強く関与している.痴呆には,加齢に伴う生理的機能低下が発症基盤として存在しており,老化そのものが遺伝因子の影響を受けるとも考えられる.すでに主要な単遺伝子型ADの原因遺伝子は同定されており,常染色体性優性遺伝を示す家族性若年発症型ADでは約70%で原因遺伝子変異が同定されている.一方,多遺伝子型ADではアポリポタンパクE遺伝子がリスク遺伝子であるが,さらに未知の遺伝因子の探査が進められており,脳の老化機序解明の糸口になることが期待される.
キーワード 痴呆,脳血管性痴呆,双生児,アルツハイマー病,アポリポタンパクE
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論文名 家族性アルツハイマー病;APP
著者名 諸橋雄一,岩坪 威
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(11):1338-1344,2003
抄録 アルツハイマー病(AD)脳に沈着する老人斑アミロイドの主成分は機能不明の膜タンパク質βアミロイド前駆体タンパク(APP)から切り出されたアミロイドβペプチド(Aβ)であり,とくにC末端が第42残基まで伸びた凝集性の高いAβ42が優先的に蓄積する.家族性AD(FAD)の原因遺伝子として最初に同定されたAPPの変異はAβのN末端側,Aβ配列内部およびC末端側の3か所に位置し,それぞれAβの産生総量の上昇,Aβの凝集性の変化およびAβ42の比率上昇を引き起こす.
キーワード アルツハイマー病,アミロイドβペプチド,βアミロイド前駆体タンパク,プロトフィブリル
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論文名 プレセニリンの生物学とアルツハイマー病病理過程との接点
著者名 大河内正康,武田雅俊
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(11):1345-1353,2003
抄録 プレセニリンはアルツハイマー病の原因タンパク質である.この疎水性の高い多数回膜貫通タンパクの機能がタンパク分解酵素である可能性が高い.すなわち,アミロイドβタンパク(Aβ)を産生するタンパク分解酵素であるγ切断を担うγ-セクレターゼそのものではないかとされている.プレセニリンのアルツハイマー病を引き起こす病原性突然変異体はβAPPのγ切断の正確さに影響を及ぼし,γ切断部位を2〜3残基カルボキシル末端側へ移動させる.その結果として,γ切断による主要な生産物であるAβ40に比較した相対的なAβ42の量を増大させる.プレセニリン・γ-セクレターゼによるタンパク分解は,「水分子が排除された膜内でのタンパク分解」という矛盾したしかし細胞機能にとって必要な現象の鍵となっている可能性がある.実際,この膜内タンパク分解メカニズムがシグナル伝達時に中心的な役割を果たしている例が次々に明らかになってきている.
キーワード プレセニリン,アルツハイマー病,γ-セクレターゼ,ノッチシグナル伝達,膜内タンパク分解
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論文名 家族性アルツハイマー病;ApoE
著者名 谷向 知
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(11):1354-1360,2003
抄録 アポリポタンパクE遺伝子ε4は,家族性アルツハイマー病だけでなく孤発性アルツハイマー病の危険因子である.この遺伝子のプロモーター領域には,塩基配列の異なる多型がいくつかあり,その組合せは,タンパクの発現量のだけでなく,アルツハイマー病の発症にも影響を及ぼしているものと考えられる.また,アポリポタンパクE遺伝子多型は,単に発症を促進するものでなく,臨床像や臨床経過,薬物反応性にも関連している可能性がある.
キーワード アルツハイマー病,アポリポタンパクE遺伝子多型,プロモーター領域,危険因子
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論文名 孤発性アルツハイマー病の連鎖解析,相関解析
著者名 川上秀史,丸山博文,森野豊之
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(11):1361-1364,2003
抄録 新規なアルツハイマー病感受性遺伝子を見いだす方法として,連鎖解析および相関解析が行われている.最近,連鎖解析によっておのおのの発症年齢に対応した陽性領域が検出された.相関解析の結果を裏づけるために,メタアナリシスが行われ,アンジオテンシンI 変換酵素(ACE)遺伝子が陽性であった.また,マイクロサテライトマーカーによる全ゲノムを対象にした相関解析が行われている.
キーワード ノンパラメトリック連鎖解析,罹患同胞対法,発症年齢,メタアナリシス,マイクロサテライトマーカー
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論文名 孤発性アルツハイマー病のゲノムワイド解析
著者名 木村英雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(11):1365-1370,2003
抄録 アルツハイマー病は大きく家族例と孤発例に分けられる.家族例についてはいくつかの原因遺伝子が明らかになってきているが,アルツハイマー病の大半を占める孤発例についてはどのような原因によって発症するのか,まだ明らかになっていない.家族例のように1つの遺伝子の変異によって起こるのではなく,いくつかの危険因子が重なって発症する多因子疾患と考えられている.各個人によって少しずつ異なるSNP(single nucleotide polymorphism)が危険因子のひとつである可能性が高い.ここでは,SNP解析による危険因子の探索について,最近の報告をまとめてみた.
キーワード アルツハイマー病,ゲノムワイド,アミロイドβタンパク,タウ,プレセニリン.
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論文名 タウオパチーの遺伝的リスクファクター
著者名 小林智則,長谷川成人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(11):1371-1377,2003
抄録 タウオパチーは多様な病態を背景として発症する.FTDP-17ではタウ遺伝子そのものの変異が確認されている.進行性核上性麻痺や皮質基底核変性症での関連分析結果は,タウ遺伝子座に何らかの疾患感受性要因が存在する可能性を示唆しているが,遺伝子変異は見つかっていない.異常リン酸化タウの沈着する病態から,タンパク質のリン酸化および品質管理,タンパク質分解にかかわる分子の関与もタウオパチーの遺伝的リスクファクターを考えていくうえで今後重要になるものと思われる.
キーワード タウオパチー,タウ遺伝子,異常リン酸化タウ,FTDP-17,進行性核上性麻痺
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論文名 血管性痴呆の遺伝リスクファクター
著者名 浦上克哉,谷口美也子,足立芳樹,涌谷陽介,中島健二
雑誌名
巻/号/頁/年
老年精神医学雑誌,14(11):1378-1382,2003
抄録 血管性痴呆はわが国の痴呆性疾患において2番目に多い原因となっており,その発症機序の解明が求められている.CADASILは常染色体優性遺伝の遺伝性白質脳症で,脳血管障害の発作を頻回に繰り返し痴呆症状を呈するようになる.第19染色体短腕のNotch3遺伝子の変異により発症することが明らかにされている.脳のアミロイドアンギオパチー(CAA)は正常高齢者に加齢とともに出現してくるが,アルツハイマー病やダウン症候群で高率に認められることから,痴呆症の成因と密接にかかわっていると考えられる.遺伝性のCAAとしては,オランダ型とアイスランド型が知られている.血管性痴呆の遺伝リスクファクターとして,アポリポタンパクE,アンジオテンシン変換酵素(ACE),リポタンパク(a)などが報告されている.
キーワード CADASIL,アミロイドアンギオパチー,アポリポタンパクE,アンジオテンシン変換酵素遺伝子,アルツハイマー病
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