第18回日本老年精神医学会 演題抄録 |
【シンポジウム;アルツハイマー病の早期診断】 |
バイオマーカー |
浦上克哉 鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座 |
アルツハイマー型痴呆(AD)は,近年塩酸ドネペジル(商品名アリセプト)が発売され治療が可能となり,早期診断の重要性が認識されてきた.しかし,現在のAD診断は徹底した除外診断に基づいてなされており,より容易にだれでもできる診断マーカーの開発が望まれている. ADの生物学的診断マーカーの条件として,病態をよく反映し,患者への侵襲性が少なく,他の痴呆性疾患を区別して診断する精度が高いこと,つまりADを検出する率(感度)と非患者を検出しない率(特異度)がともに80%を越えることを要求されている.髄液中総タウ蛋白は上記基準をかなり満たすが,感度と特異度がともに80%以上はむずかしく,アミロイドβ蛋白との組合せで感度と特異度がともに80%以上という結果が得られている.総タウ蛋白でとくに問題なのは,髄膜脳炎やクロイツフェルトヤコブ病(CJD)などで極端に高値を示すことである.そこで,単独でこの基準をクリアする方法はないかと考え,髄液中リン酸化タウ蛋白を検討した.AD脳にみられる神経原線維変化のタウ蛋白は高度にリン酸化されている.このため,リン酸化タウを選択的に測定できれば,総タウよりよい結果が期待できる.そこで,われわれのグループはセリン199のリン酸化部位に着目してリン酸化タウN末端断片を定量するサンドイッチELISAを開発した.その結果,総タウよりよい結果が得られ,とくに総タウで高値を示していた髄膜脳炎やCJDでリン酸化タウは低値であった.このためROC解析でも明らかに改善し,単独で感度,特異度ともに80%以上を越えるという結果が得られた1).現時点では髄液中リン酸化タウ測定が最も信頼性のおけるADの診断マーカーと考えられる. 髄液検査は手軽にできないため,これにつなげるための簡易なスクリーニング検査が必要と考える.われわれは,タッチパネル式コンピューターを用いたADの簡易スクリーニング法を開発し,その有用性を報告した.これは,手軽にどこでも簡便に行えるもので,非侵襲的で,かつROC解析で感度96%,特異度97%ときわめて有用な結果が得られている2). 塩酸ドネペジルへの反応の良好な群(responder)とあまり良好でない群(non-responder)が存在する.この両群を区別できるものの検討もなされてきている.われわれは,アセチルコリンレセプターa7の遺伝子多型に着目して検討したところ,塩酸ドネペジルのresponderには,アセチルコリンレセプターa7の2base deletionのヘテロ群が多いことがわかった3).今後の診断マーカーとして,単にADの早期発見のためのマーカーのみならず,薬剤有効性の予知のための診断マーカーという観点からも検討が必要と考える.
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2003/06/18 |