第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

シンポジウム;アルツハイマー病の早期診断】

画像診断
  
北垣 一 島根医科大学放射線医学
 アルツハイマー病の早期画診断のアプローチは形態的方法と機能的方法に分けられる.アルツハイマー病の進行において形態情報,機能情報のいずれが重要かは議論がある.各計測手法がいずれの変化に対して感度が高いかが問題である.つまり早期診断に最適な画像診断法は時代によって,また求められるレベル(臨床か最先端の研究か)でも異なる.
 形態的には海馬・扁桃体の萎縮が診断的である.形態情報を得るには診断装置としてCT,MRIを用いるが,CTでは検出器型の性能でMRIでは高磁場ほど検出力は高い.しかしCTでは中等症までは診断できるが,軽症では困難といえる.早期痴呆の診断は臨床用の磁場強度1.5TのMRIで冠状断T1強調像により海馬・扁桃体の萎縮程度を視覚的に判定することで臨床レベルとしては可能といえる.臨床的に痴呆を発症する前段階で検出するには1.5Tもしくはそれ以上の磁場強度で全脳の3次元測定を行い,海馬・扁桃体の体積を測定して判定をしたり,MRI初回測定後1年で再測定をし体積値の変化を評価したり,あるいは位置合わせをして萎縮の部位と程度を同定する方法が必要になる.老人斑そのものを画像化すればより早期の診断が可能であるとの考えから7Tの実験機を用いてラット脳切片の画像を得た研究では老人斑に選択的に取り込まれる造影剤を投与後,画像化している.
 機能的には側頭・頭頂連合野の血流・代謝低下が診断的である.情報を得るにはSPECT,PETを用いSPECT(汎用型よりも頭部専用の装置が高度)よりもPET(二次元よりも三次元が高度)のほうが感度が高く検出力も強い.臨床的早期の痴呆の診断にはIMP,Tc-HMPAO,Tc-ECDによる脳血流SPECT(頭部専用機)であれば可能である.核医学診断において定性的な視覚診断から3D-SSPのように正常データベースをもとにした統計学的診断が可能となり,診断の精度は向上した.PETはFDGによる診断が保険承認されたが,痴呆の診断は米国FDAと同様,非承認で今後もその道は険しそうである.痴呆発症前の診断にはFDG-PETで可能である.さらに早期で特異的な診断は新しい放射性薬剤の開発が必要である.アミロイド組織に集積するFDDNPは,アルツハイマー病・病変部に特異的に集積する.
またMRI,時にCTは形態情報だけでなく機能情報を得ることが可能である.MRIによるアルツハイマー病の機能診断はBOLD効果によるfunctional MRIが注目されている.前痴呆段階の被験者に課題を与えて脳賦活試験をすると頭頂連合野や全脳で健常者よりも広い賦活が得られ,早期の診断に応用可能である.また,血流信号の画像化や造影剤の投与で側頭・頭頂連合野の血流低下を検出できる.さらに,MRスペクトロスコピーにより代謝情報を得られる.
現在の臨床用MRIによる血流・代謝情報は早期診断のレベルではないが,可能となれば形態診断と同時に機能診断ができてきわめて有用である.

2003/06/18


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