第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−62

前頭側頭型痴呆の臨床的早期診断;アルツハイマー病等とみなされて治療を受けていた症例を通して

三原デイケア+クリニックりぼん・りぼん
三原伊保子 廣澤美佐子 嶋田知子
 痴呆性疾患への関心が高まり,「物忘れ外来」も各地で次々に設置されている.当院の位置する北九州市でも「もの忘れ外来」のモデル事業が開始され,本年度からは,本事業として幅広く行われる計画とのことである.マスコミ等の努力もあり,アルツハイマー型痴呆は一般にも広く知られるところとなったが,前頭側頭型痴呆等の非アルツハイマー型変性は前者に比較して症例数が少ないこともあり,とくにその病初期では鑑別が困難な例も少なくない.そこで,当院に受診した患者のうち他の診断を受けていた症例を検討しつつ,前頭側頭型痴呆の臨床的早期診断を考える.


【症例1】61歳.女性.平成12年初めころより,家事を徐々にしなくなり,話すことが少なくなる.このため,近医脳外科にて頭部MRI検査を受けたが,異常なしといわれる.
 その後言葉がほとんどでなくなり,かかりつけ医がアルツハイマー病を疑い塩酸ドネペジルを投与.介護サービスを受けながら夫が在宅で看ていた.平成15年1月当院初診.表情硬く緘黙,決まった場所を動き回るような滞続症状あり.「立ち去り行動」が認められる.頭部CT-Scanにて前頭葉および側頭葉に限局性萎縮が認められた.


【症例2】59歳.女性.平成12年初めころより言葉がでにくくなり,近医にて頭部MRI検査を受け異常なしと言われる.平成13年6月総合病院にて頭部MRI検査は異常なかったが,アルツハイマー病を疑われ塩酸ドネペジル投与を受けるが,効果なく中断.同年9月当院初診.喚語困難・復唱障害・読みの障害・書字障害・聴覚的理解の障害があり混合型失語が認められた.また滞続症状もあり,終始ニコニコと多幸的である.頭部MRIにて前頭葉および側頭葉に萎縮が認められた.


【症例3】79歳.女性.60歳ころより意味不明の言動あり.自室に閉じこもり,対話性のメモを書き続けたりしていた.平成9年になり,同居した長女が異常に気づき,演者の以前の勤務先に受診する.元来寡黙な人とのことだったが,当時から発語は少なかった.記憶障害は軽度で,頭部CTも顕著な萎縮は認められなかった.平成13年3月ごろより自発性の低下が著しく,まとまった話もできなくなる.平成13年7月演者が開業したため当院受診.発動性の減退・自発語の減少・喚語困難・書字困難が認められた.同年9月頭部MRI検査にて前頭葉・側頭葉優位に萎縮が認められた.


【考察】初期の前頭側頭型痴呆は,頭部MRI検査等にもはっきりした選択的萎縮が認められにくいが,症例を検討するとごく初期から,発語・会話等に問題があったことなどいくつかの点で特徴的である.前頭側頭型痴呆は,その対応を含めた治療や予後がアルツハイマー病等と著しく異なるため,つねにその可能性を考えつつ診断に当たるべきであると,自戒もこめて考えるものである.

2003/06/18


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