第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−60

痴呆及び健常老人における時系列活動量データのフラクタルの相違

滋賀医科大学精神医学講座
青木浄亮 大川匡子 山田尚登
    琵琶湖病院 松田桜子
 滋賀県立精神保健センター 野口敏文
    瀬田川病院 宮川正治
【はじめに】ヒトの活動は時系列上複雑な変化を示し,その変動パターンを記述する際に,従来の方法,とくに線形モデルでは適合度が問題となり,活動量の質的変化を十分にとらえているとはいいがたい.このように複雑な変動パターンを定量化するための方法のひとつにフラクタル解析がある.
 痴呆においては,視覚的には時系列上活動量の変化がとらえられるが,この変化を定量的に示す指標はこれまでほとんど報告されていない.本研究では,正常被験者および痴呆患者の時系列活動量のパターンに対してフラクタル解析を行い,変動量のフラクタル性の有無および差異を検討した.


【対象と方法】正常被験者9名(男性8名,女性1名)およびDSM-W診断基準でアルツハイマー型老年期痴呆(SDAT)または脳血管性痴呆(VD)と診断された患者11名(SDAT:7名,VD:4名)を対象とした.研究は,すべての被験者に対して研究の目的,方法,得られる結果等を説明し書面により同意を得た後に開始した.なお,被験者に対し研究からの離脱はいつでも可能であり,離脱の結果いかなる不利益もないことを保証した.
 活動量の測定は,米国A.M.I.社製アクチグラフ(B.M.A.型)を用いて行った.アクチグラフの標本化時間は3分とし,午前9:00に利き手と逆の手首に装着し24時間計測を行った.活動量のデータはアクチグラフからPCに転送した後,解析処理を行った.
 フラクタル解析はHiguchiの方法によって行った.標本化時間の粗視化に対する時系列行動量の累積変動量の両対数グラフをとり,有意な相関があれば統計的にフラクタル性が存在するとした.フラクタル次元は回帰直線のX係数の絶対値とした.なお,平均値の差はt検定を用い,危険率5%未満を有意とした.


【結果】正常被験者における24時間時系列行動量パターンは全員フラクタル性を示した(r=-0.9997〜-0.9990:p<0.01).フラクタル次元の平均±標準偏差は,1.81920±0.07818であった.痴呆患者における24時間時系列行動量パターンもフラクタル性を示し(r=-0.9999〜-0.99961:p<0.01),フラクタル次元は1.7386±0.11861であった.また,フラクタル次元は両群間で優位な差が認められた(t=2.44,p<0.05).


【考察】本研究では,ヒトの時系列行動量パターンにフラクタル性があることを証明した.健常者では活動量の日内変動のパターンがフラクタル性すなわち自己相似的であることを示し,その複雑さが1.81920であることを示した.痴呆患者ではフラクタル次元が有意に低下していることから,行動を司る制御系が一部破綻していることが示唆される.

2003/06/18


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