第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−59

日本人アルツハイマー病におけるPS-2のプロモーター遺伝子多型

神戸大学大学院精神神経科学分野
権 文香 山本泰司 大川慎吾
保田 稔 前田 潔
 兵庫県立循環器病センター高齢者脳機能治療室
          石井一成 森 悦朗
 医療法人社団俊仁会大植病院 柿木達也
【目的】家族性アルツハイマー病の原因遺伝子のひとつとして報告されているpresenilin(PS)2には現在までに6種の変異が報告されている.最近,N RiazanskaiaらはPS2遺伝子のpromoter部位の一塩基(adenine)の欠失多型(-A)の報告が白人において有意に高値であると報告した.そこで,今回われわれは日本人AD患者において同様の実験を行い,その結果を統計学的に解析したうえで考察した.

【対象と方法】アルツハイマー病(AD)群48名(平均年齢=67.0±12.4),健常対照群36名(平均年齢=64.5±6.1).AD患者の診断は,NINCDS-ADRDAの診断基準のprobable ADを用いて行った.なお,本研究の実施については,平成13年3月29日文部科学省,厚生労働省,経済産業省の3省庁合同で作成された「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に準じ,神戸大学院医学系研究科遺伝子解析研究倫理審査委員会の承諾を得て,書面で患者本人もしくは患者の配偶者(または実子)から同意取得を行ったうえで,同意の署名を全対象者から取得した.対象者の末梢静脈血から白血球を分離し,標準的方法を用いてgenomic DNAを抽出した.その後,N Riazanskaiaらの方法に従って,PCR-RFLP法を用いて,PS2(-A)の有無を同定した.


【結果】AD群48例と健常対照群36例のうち,まず全対象をAD群と健常対照群に分類した場合における,PS2(-A)を有する群と有さない群のそれぞれの頻度を比べた.この結果,AD群と対照群の間でPS2(-A)の出現頻度に有意な差はなかった.さらに,全対象をAPOE e4多型を有する群と有さない群に分類したうえで,PS2(-A)を有する群と有さない群のそれぞれの頻度も比べた.この結果,対象群の症例数が少ないものの,統計学的には有意でなかった.そこで,対象を早発性ADと晩発性ADに分類したうえで,AD群と対照群それぞれにおけるPS2(-A)を有する群と有さない群の頻度を分析したら早発性AD群および晩発性AD群ともに年齢をマッチさせた対照群と比較してPS2(-A)の出現頻度に有意な差はなかった.最後に,さきの報告に従って,APOEε4多型を有さない65歳以下の症例において,PS2(-A)の頻度を比較したところ,両群間に有意な差は認められなかった.


【考察】今回われわれが行った日本人AD群と健常対照群におけるPS2(-A)変異のアレル頻度はそれぞれ17.3%と14.7%であった.これらの値はN Riazanskaiaらの報告した,21.6%と20.7%に比較して低値であった.このことから,PS2(-A)の変異にはある程度の人種差があるものと推測される.もう一点は,今回の実験における対象症例数が少ないことが統計結果の相違に影響を与えている可能性が考えられる.要約すると,今回のわれわれの実験結果では,PS2遺伝子のpromoter部位の一塩基欠失多型と日本人ADの有意な関連を認めなかった.また,PS2遺伝子のpromoter部位の一塩基欠失多型とAPOEε4多型の相関も認めなかった.

2003/06/18


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