第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−57

遅発性統合失調症の臨床特徴について

八事病院精神科 奥田正英 吉田伸一 佐藤順子
          濱中淑彦 水谷浩明
 中高年期に幻覚・妄想を中心とした精神症状を示し精神科を受診する症例がみられるが,統合失調症なのかそれとも痴呆疾患の過程に認められる随伴症状なのかの診断の問題や,統合失調症ならばなにが病状を悪化させ痴呆様にさせる要因なのかの疑問が生じる.今回私達は中高年期に発症した統合失調症の症例について精神医学的な分析を行い,臨床特徴について検討を加えたので報告する.


【対象と方法】対象は45歳以上のDSM-Wで統合失調症と診断された8名(男1名,女7名)で,年齢は68.5±8.8(平均±標準誤差)歳,発病年齢は60.4±0.4歳,発病から精神科受診までは3.5±1.5年であった.これらの症例の発病状況などの患者の背景,BPRS(Brief Psychiatric Rating Scale)を含む精神症状,老研式活動能力指標による生活能力,HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE(Mini-Mental State Examination)などの簡易痴呆評価,頭部CT,脳波などについて検討し,統計処理できるものについては相関を求めた.


【結果と考察】患者の背景として,遺伝負因は2例に,発病に関連したライフイベントは娘の自殺,一戸建ての家屋を購入など軽重さまざまなものを5例に認めた.結婚歴は全例にあり死別は3例であり7例は子どもに恵まれ独居者はいなく,比較的家庭環境はよいと考えられた.濱田の指摘する予後良好群の因子である同胞順位が中間の者は4例であった.身体合併症は喘息,高血圧が各1例に認めたが重篤なものはなかった.検査結果では軽度の貧血が3例であった.日常生活動作は全例自立していたが,老研式活動能力指標では手段的自立は2.5±2.1,知的能動性は2.4±1.0,社会的役割は1.8±1.1,合計6.6±3.0であった.幻覚と妄想については幻覚優位型が3例,妄想優位型が3例,同程度の混在型が2例であった.「統合失調症くささ」は3例に認められた.抗精神病薬に対する反応は7例で良好であった.BPRSは18.0±6.3であった.頭部CTではVerga腔が1例に認められたがその他は正常範囲であり,脳波は1例が正常でその他は前方部あるいは中心部優勢なθ波の混入を認めたことから,脳の形態学的なものよりも機能的な変化を起こしていることが推測された.HDS-Rは21.4±4.9でありそのうち遅延再生は2.5±1.8であり,MMSEは22.6±3.5であった.BPRSと相関を示した項目は,老研式活動能力指標の合計,HDS-RとMMSEの得点であった.
 このように今回対象とした遅発性統合失調症の臨床特徴は,比較的良好な家庭環境のなかに遺伝負因や軽重さまざまなライフイベントなどを発病促進因子として,重篤な身体合併症や検査異常を認めないが,一方で幻覚や妄想を中心とした陽性症状をまた他方で生活能力や知的能力の低下を認め,抗精神病薬の効果が比較的良好であるとまとめられる.今後さらに症例を増やし臨床症状の評価や経過から診断や予後について検討を深めたい.

2003/06/18


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