第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−55

睡眠障害を伴った老年期初発の音楽性幻聴の1例:寛解に至った臨床経過の検討
  

天理よろづ相談所病院 奥村和夫
【はじめに】音楽性幻聴は,今日注目されてきてはいるが,その症候学的議論は十分にはなされていない.近年,Berrios(1990)は,難聴,脳腫瘍(とくに側頭葉)やてんかんの既往のある女性に音楽幻聴が多く,また精神疾患や人格傾向との関連はないと報告している.今回,老年期初発の音楽性幻聴が薬物治療により寛解した女性が,薬物治療の中止1年後の現在も症状の再発を認めないため報告する.なお,risperidone(RIS)については口頭と文書で本人に説明し,報告については口頭で同意を得た.


【症例】74歳,女性.X年1月睡眠障害を主訴に当科初診,音楽性の幻聴の訴えも伴っていた.同日からRIS 0.5 mg/dayを投与し,4週後にはBPRS上幻聴は改善したが,睡眠障害は持続していたため薬物治療は継続.X+2年4月には睡眠状態も改善し,同年5月で薬物治療は中止となり,症状が寛解しているため同年6月に終診とした.


【考察】薬物治療における幻覚の改善方式あるいは消褪経過については,従来のいわゆる定型抗精神病薬に関してはAxelsson(1987)等の報告があるが,今回,低用量のRIS投与中に音楽性幻聴の改善が認められた.本例の結果からは,RISの低用量投与が音楽性幻聴の改善に効果的な役割を果たした可能性が示唆された.


[参考文献]
 1)Roth M, Kerr A, Howorth P : Commentaries on^n ★★,“Audible Thoughts”and“Speech Defect”in schizophrenia,. Br J Psychiatry, 168:536-539(1996).
 2)Berrios GE : Musical hallucinations ; A historical and clinical study. Br J Psychiatry, 156:188-194(1990).
 3)Fenton GF, McRae AD : Musical hallucinations in a deaf elderly woman. Br J Psychiatry, 155:401-403(1989).
 4)Okumura K : Pharmacotherapy of first episode auditory hallucinations in the elderly ; Report of 2 cases. Tenri Medical Bulletin, 3:69-73(2000).

2003/06/18


BACK