第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−54

軽度アルツハイマー型痴呆に見られるBPSDの臨床特性
  

古川市立病院 島袋 仁
 東北大学大学院医学系研究科精神神経学 粟田主一
【研究背景】痴呆にみられる行動・心理学的な症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia, BPSD)は,介護負担の主因となりやすく,痴呆性高齢者とその家族のQOLに重大な影響を及ぼしうる臨床症状である.先行研究において,演者らは,精神保健相談事業を利用する軽度痴呆性高齢者においても,妄想,不安,抑うつ,易怒性・攻撃性が高頻度にみられ,これらの精神症状に対する高い保健福祉医療ニーズが存在することを指摘した(粟田,老年精神医学雑誌13:1175-1184,2002).


【目的】本研究では,軽度痴呆性高齢者の保健福祉医療ニーズの所在を明らかにするために,痴呆性疾患の鑑別診断機能と継続的な精神医学的管理機能を有する総合病院精神科外来受診例を対象に,軽度アルツハイマー型痴呆のBPSDの特徴を分析した.

【対象と方法】対象は,平成13年4月〜平成14年7月に古川市立病院メンタルケアセンター外来を新患受診したアルツハイマー型痴呆連続症例74名(男性20名,女性54名,平均年齢76.0±7.9歳,年齢範囲53歳〜93歳)である.初診時に痴呆重症度をCDR,認知機能をMMSEで評価するとともに,BPSDを日本語版NPI(The Neuropsychiatric Inventory)(博野ら,脳神経49:266-271,1997)を用いて評価し,CDR別にBPSDの合計点ならびに各下位項目の重症度,出現頻度を比較した.統計学的解析にはKruskal-Wallis順位検定,クロス集計,★c2乗検定を用いた.

【結果】CDR 0.5群は17人,1群は33人,2群は17人,3群は7人であり,群間において年齢差は認めなかった.NPI総合点は群間に有意差を認め(P<0.05),痴呆の重症度が高まるとともにNPI総合点が増加する傾向を認めた.しかし,下位項目別にみると,興奮,多幸,無為,脱抑制,異常行動の重症度については,群間に有意差を認め(P<0.05),痴呆の重症度が高まるとともに下位得点が増加する傾向を認めたが,妄想,幻覚,抑うつ,不安,易刺激性の重症度については,群間に有意な差を認めなかった.CDR 0.5群,1群におけるそれぞれの出現頻度は,妄想で64.7%,63.6%,幻覚で23.5%,18.2%,抑うつで47.1%,63.6%,不安で64.7%,45.5%,易刺激性で52.9%,63.6%であり,妄想の内容別では,物盗られ妄想がCDR 0.5群の54.6%,CDR 1群の76.2%に認められた.

【考察】総合病院精神科を受診した患者群を対象とした結果であり,選択バイアスの問題は残るが,妄想・幻覚などの精神病症状や抑うつ・不安・易刺激性などの感情症状は軽度アルツハイマー型痴呆にも高頻度に認められる重要なBPSDであることが確認された.

【結論】軽度アルツハイマー型痴呆においても,妄想,幻覚,抑うつ,不安,易刺激性に対する高い保健福祉医療ニーズが存在する.

2003/06/18


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