第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−53

遅発性遺伝性水頭症の1家系
  

国立療養所菊池病院臨床研究部 桂木正一
 国立療養所菊池病院
西山浩介 高松淳一 弟子丸元紀
  国立熊本病院 山下建昭
【はじめに】6例中5例が成人期以降,1例が学童期に水頭症が明らかになり,知的機能,感情,意欲が徐々に障害される遅発性遺伝性水頭症の1家系を報告する.以前の本学会でX-linkedとして報告したが,その後に女性に発病がみられこと,さきの報告では家族歴に誤りがあったこと,2症例があらたに確認できたので,追加して報告したい.
【症例1】死亡時74歳,男性,25歳で強直間代発作,精神運動発作が出現し,49歳まで1年に数回の頻度であった.52歳で公務員の仕事の能率低下があり,54歳で退職し,以後は無為な生活を送った.54歳時の精神科受診時の所見は,記銘力低下,失見当,計算障害,意欲減退,無遠慮,多幸的,歩行不安定.脳圧が正常でNPHとしてシャント術を受けたが,症状は緩徐に進行し,大腸癌で死亡.
【症例2】72歳,男性,症例1の弟,44歳で強直間代発作が出現し,抗けいれん剤を服用し,1年で改善した.60歳ころから記銘力低下,自発性減退,自宅で無為に生活している.62歳:強直間代発作が出現,知的機能障害と脳失拡大を指摘された.歩行不安定と尿失禁が出現している.
【症例3】62歳,男性,症例1の異母弟,41歳で強直間代発作が出現した.51歳ころに物忘れが出現したが本人は否定.53歳で記銘力低下が増悪,動作が緩慢になり自宅で無為となった.着脱衣が不可能,尿失禁が加わった.精神科を受診したときの所見は,記銘力低下,失見当,計算障害.脳圧が正常でNPHとして,シャント術を受けたが,症状は徐々に進行している.このころに肝癌の既往がある.57歳で歩行不安定,尿失禁が増悪した.
【症例4】20歳,男性,症例1の孫,母親の妊娠中異常なく,正常満期産,乳幼児期の発育は正常.6歳で精神運動発作が出現し上側頭葉spike &waveが出現.8歳で頭部CT上,脳室拡大を指摘された.小学校卒業までは問題がなかったが,中学で感情不安定,不登校.漢字を覚えるのが苦手で,学習困難として治療された.その後,シャント術を受けたが,知的機能障害,意欲のなさ等が徐々に進行している
【症例5】47歳,女性,症例1の娘・症例4の母親,元来しっかりした人で公務員として勤務している.最近,物忘れが増えたことを自覚し,頭部CTを希望して受診したところ,他の患者と同様な脳質拡大があった.30歳ころに卵巣癌の既往がある.
【症例6】男性,症例1,2,3の父親,死亡時(初老期)の年齢不詳.症例1の妻によれば,公務員であったが,あるときからけいれん発作があり,精神病院で死亡した.胃癌もあったらしい.
【まとめ】本科系の特徴として,@水頭症としては発病年齢が遅い,A初発症状として,てんかん発作が多い,B精神症状は,記銘力低下がさきにでて,意欲・感 情障害が続いて出現する,C症状の進行が緩徐,D神経症状として,歩行不安定,尿失禁などがあるが,他の遺伝性水頭症と比較して,神経症状が軽微である,Eシャント術で改善しない,F癌の合併が多い印象がある,G遺伝様式は常染色体・優勢が考えられる.これらの特徴をもった遺伝性水頭症は,いまのところ報告がない.

2003/06/18


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