第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−52

精神科領域でみる前頭側頭型痴呆・前頭葉変性型と考えられる症例について
  

横浜市立大学医学部精神医学教室
日野博昭  井関栄三 古川良子
小田原俊成 小阪憲司
  横浜舞岡病院・横須賀市立病院精神科 塩崎一昌
    曽我病院 加藤雅紀
 前頭側頭型痴呆(frontotemporal dementia ; FTD)は前頭葉および側頭葉前方に限局した病変を呈する非アルツハイマー型変性痴呆の包括的な疾患概念であり,1994年にLund-Manchesterグループによって臨床・病理学的診断基準が提唱された.FTDは神経病理学的に,前頭葉変性型(frontal lobe degeneration type),ピック型(Pick type),運動ニューロン型(motor neuron disease type)の3型に分類され,ピック型・運動ニューロン型が特徴的な臨床・画像所見と病理所見を呈することから診断は困難ではないが,前頭葉変性型は臨床・病理所見が明確でないため,本邦の臨床報告例はほとんどなく,剖検例はまったく報告されてない.
 今回,われわれは当科および関連病院で,FTDの前頭葉変性型と考えられた10例の臨床所見と画像所見を検討した.
 10例の平均年齢は62.8歳,男性1例・女性9例である.全例に同疾患の家族歴はないが,2例で近親者にうつ病に罹患した者や自殺者を認めた.初発症状は抑うつ状態3例,無関心・自発性低下2例,脱抑制2例,被害妄想1例,心気症1例,不安症状1例であった.初期のCTで両側の前頭葉萎縮を認めたものが4例,両側の前頭葉から側頭葉前方に萎縮を認めたものが4例あったが,すべて萎縮は軽度であった.画像上有意な萎縮を認めなかった2例では,SPECTで前頭葉から側頭葉の血流低下を認めた.10例中6例でSPECTが施行されているが,左側の前頭葉から側頭葉の血流低下が3例,両側の前頭葉から側頭葉の血流低下が2例,1例のみ右側前頭葉と左側側頭葉の血流低下を認めた.臨床経過としては,10例のうち1例が経過6年で合併症により死亡しているが,他の9例は生存しており,平均8.6年の経過で,最長は17年である.経過中に出現した臨床症状として,常同的・強迫的言動や行動が6例にみられ,10例全例で緩徐ではあるが,人格変化が進んでいる.記憶障害は,10年経過の1例で顕在化したが,他の8例では軽度認める程度で,9年経過の1例では現在でもほとんどみられない.5例でCTによる経過が追えているが,初期から前頭葉と側頭葉前方に軽度の萎縮を認めた4例では萎縮の進行を認めるが,いわゆるknife-blade状の限局性萎縮はきたしていない.
 今回の結果から,精神科領域でみるFTDの前頭葉変性型と考えられる症例は,多くは初老期・老年期うつ病や妄想性障害などと診断される精神病様症状で発症することが示唆された.経過中に人格変化や常同・強迫行動などの前頭葉症状が顕在化してくることから,継続的な画像検査とともに経過を注意深く観察することが必要であると考えられた.これらの症例が共通の病態機序をもつ疾患単位であるかは不明であり,今後,病理学的検討が必要である.

2003/06/18


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