第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−51

アルツハイマー病の経過に影響を及ぼす諸要因の検討
  

浴風会病院 古田伸夫 磯野 浩 鈴木由貴
          須貝佑一
 昭和大学横浜市北部病院  葉室 篤
    駒木野病院 鳥居成夫
【目的】アルツハイマー病の臨床像の変化を,加齢やその他の“イベント”の発生によりどのような影響があるのかを検討した.

【対象】2001年1月から2001年12月までの間に,当院精神科を初診した者のうちNINCDS-ADRDAにてアルツハイマー病の診断基準を満たしたものとした.

【方法】該当患者の診療録を後方視的に調査し,初診時記録,2002年1月から12月までの間の記録より臨床像を評価した.追跡調査は初診時より6か月以上の期間がある時点での評価とした.MMSE,N-ADL,NM,精神症状の有無について調査した.N-ADLは一部改変し,臨床的観点から着脱衣・入浴の項をそれぞれ独立とし,NMはADLによらない3項目のみの評価とした.今回の調査でN-ADLを活動性(歩行・起坐,生活圏),身辺(着脱衣,入浴,摂食,排泄)に分類し,NMの3項目と合わせて90点満点(SCALE)にて評価した.さらに年齢,“イベント”の影響を検討した.年齢は85歳未満の群と,85歳以上の“高齢群”とに分けた.また脳血管障害,骨折,身体疾患,入所,転居などが経過中にあったかどうかを“イベント”としてチェックし,ひとつでも“イベント”があった群とない群に分けて検討した.精神症状についてはNPIの10項目に“幻の同居人”“作話”“せん妄”“昼夜逆転”の4項目を加えた14項目の有無について調査した.


【結果】アルツハイマー病と診断された初診患者は85名(女性59名,男性26名)であった.平均年齢は82.1歳,発症年齢の平均は79.1歳であった.MMSE,SCALEに性差は認めなかった.そのなかで2002年に状態が評価できたものは43名(50.6%)であった(MMSEに関しては27名,31.8%).初診時の評価ではMMSE,SCALEとも“高齢群”のほうが有意に得点が低かった.再診時(平均12.0か月後)の評価では,MMSE,SCALEとも有意に低下していた.イベントの有無にてMMSE,SCALEの“活動性”の変化において差が認められた.初診時の精神症状の有無については,妄想が最も多く30.6%に認められた.次いで易刺激性(20.0%),異常行動(15.3%),興奮,幻の同居人(14.2%),作話,昼夜逆転(11.8%)であった.高齢群にて有意に精神症状を認める割合が高かった.精神症状の有無により2群に分けると,MMSE,SCALEともに有意差を認め,多くみられた精神症状について検討したところ,“幻の同居人”“昼夜逆転”のある群でMMSE,SCALEのすべてが有意に低い得点であった.フォロー可であった43名については初診時,再診時での精神症状数に変化は認めず,年齢群,イベント発生の有無による影響も認めなかった.


【考察】アルツハイマー病の重症度,臨床経過において,MMSE,N-ADL,NMによる評価に対し年齢,イベントの発生,精神症状の有無が影響を与えることがわかった.高齢群にて精神症状を多く認め,また有意差は認めなかったがイベントが多くみられる傾向があるため,症状の増悪がみられる可能性が示唆された.痴呆の重症化に対し,精神症状のコントロールが重要であり,“イベント”防止の観点から全身状態を中心にした日常的な管理に留意し,“状態維持”につとめることが有効ではないかと考えられる.

2003/06/18


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