第18回日本老年精神医学会 演題抄録 |
【U 1−49】 |
幼児期のimaginary companionに類似した老年期の幻覚妄想状態 |
石川県立高松病院 北村 立 栃本真一 勝川和彦 倉田孝一 中村一郎 |
2〜3歳の幼児が架空のだれか(想像上の相手)としゃべったり,遊んだりする様子は,imaginary companion(以下i.c.)として知られる.Svendsenはi.c.を,「目に見えない人物で,名前がつけられ,他者との会話のなかで話題になり,一定期間直接に遊ばれ,子どもにとっては実在しているかのような感じがあるが,目に見える客観的な基礎をもたない.物体を擬人化したり,自分自身が他者を演じて遊ぶ想像遊びは除外する」と定義している1).幼児の精神発達過程においてi.c.は了解可能な範囲の現象であり,病的な意味合いは乏しいとされる.一方,老年期精神障害の臨床のなかでも,このようなi.c.に似た現象はしばしば観察される.そこで今回われわれは,i.c.に似た幻覚妄想状態を呈した老年期精神障害の症例を呈示するとともに,老年期の妄想として有名な「幻の同居人」(phantom boarders)と比較しながら,若干の考察を加える. 【症例1】83歳女性.幼少時より難聴がある.3年前の転倒を契機に寝たきりとなり,その後痴呆も徐々に進行した.本人は,一人の部屋で上を向いたり横を向いたりしながらだれかとしゃべっている.「7人の同級生がいるのだ」と言う.「おいしいお茶でしょう」と談笑していることもあれば,「この女が1万5千円盗んだ」と怒鳴っていることもある. 【症例2】85歳女性.「“ヨーコちゃん”が2階にいて自分を助けようとしている」と訴え病棟入り口や窓のそばから離れない.「“ヨーコちゃん”は手が悪いので,恥ずかしがって人前には顔をださないが,いつも自分のことを心配してくれる」などと言う.長谷川式スケールは27点で痴呆はない. [文献] 1)犬塚峰子,佐藤至子,和田香誉:想像上の仲間;文献の展望.精神科治療学,5(11):1435-1444(1990). |
2003/06/18 |