第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−48

精神科救急システムにおける高齢者の現況
  

 東京都立松沢病院精神科
新里和弘 川田深志 鈴木美穂
大島健一 松下正明
 わが国では,人口の急激な高齢化に伴い,痴呆性疾患に代表される高齢者の精神疾患の増加が指摘されている.青年期あるいは壮年期の発病に比して,高齢者の精神疾患の発病は,一般的には緩徐であるが,時に緊急性の高い症例にも遭遇する.しかし現時点で,精神科救急を受診する高齢者についての報告は乏しいのが現状である.
 昨年われわれは当学会において,精神科救急における高齢者の臨床特徴について報告した.
 今回はそれらのデータに加えて,過去4年間の東京都精神科救急事業の基礎データをもとに,全体的なデータ解析と,高齢者の救急受診・救急入院に至るまでの経過について検討を行った.1998年から4年間,東京都の精神科救急システム利用者全例7,971名(男性4,520名,女性3,451名)について,その入院率,年齢別実数,入院形態別比率,高齢者(60歳以上)の年次変化の詳細,高齢者の措置比率などについて解析を行った.
 高齢者では,年度ごとのばらつきはあるが,入院実数は増加傾向にあり,4年間での60歳以上の高齢者総数は584名(男性337名,女性247名)であった.その入院形態では,医療保護入院が398名(68.2%),措置入院が178名(30.5%)であった.診断パターンは高齢者特有の分布を示し,合併症の存在率が男性で若年群の1.6倍,女性で3.1倍であった.
 今回のわれわれの調査から,ハード救急とよばれる現場において,高齢患者の増加が示された.高齢者はけっしてまれな存在ではなく,また呈する精神症状および問題行動も,若年・壮年層と同様に重篤なものであることが示された.また緊急入院の背景には,生活環境,医療システムや社会制度の問題などが複雑に絡んでいるものと思われた.精神科救急サービスにおける高齢者の問題点について若干の考察を行った.

2003/06/18


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