第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−47

不安,抑うつ状態で発症したDNTCが疑われた症例の5年間の経過について
  

 藤田保健衛生大学医学部精神医学教室
内藤 宏 平田美加子 成田智拓
尾崎紀夫
    大府病院 鈴木 陽
 トヨタ記念病院 大竹なほ代
 石灰沈着を伴うびまん性神経原繊維変化痴呆(DNTC)は,Alzheimer病やPick病の双方に類似し,生理的範囲を超えた石灰沈着を伴うことを特徴とする.また,その病理学的特徴として,側頭葉の萎縮と大脳半球にびまん性に出現する老人斑を欠く多数の神経原繊維変化が指摘されている.DNTCの5年間の経過に関して,症候学的および脳画像の変化を追うことをできたので,その長期経過について報告する.


 本症例は人格変化(元来のわがまま,勝ち気,頑固といった性格が強調された性格変化)の発現に続き,不安と抑うつ症状が出現したが,長谷川式簡易痴呆スケール(HDS-R)では28点,WAIS-Rでは90点と痴呆症状は認めなかった.頭部CT上ではFahr病様の石灰化を指摘され,頭部MRIでは軽度の全般性脳萎縮と多数の大脳半球の深部白質病変を認めた.初回入院時所見では,医療従事者の指示にはまったく従わないという行動様式を認めたが,一方で極端な逸脱行為は観察されなかった.また,明らかな失語・失行・失認はなく,身体的,神経学的問題も認めず,血圧も正常で,血糖,Ca,P,ビタミンD,甲状腺・副甲状腺ホルモン,カルシトニン等を含む血液生化学検査や脳波,心電図も異常を認めなかった.
 臨床症状の経過では,痴呆症状が緩徐に出現したが,当初は痴呆症状は軽度で動揺性に経過した.発症後2年目より被害妄想を1年間呈した時期があるが,発症3年目ころより痴呆症状の進行は加速され,自発性の低下とともに被害妄想を口にすることはなくなった.発症5年目の現在は,重度の記憶障害を呈し,HDS-Rも測定不能で,疎通性も困難で的はずれな応答を呈し,全面介助の生活となっている.なお本症例の特徴といえる人格変化は経過を通じて存在している.
 経過中の脳血流シンチ(SPECT)では後頭葉優位の血流低下が,記銘力障害や見当識障害等の痴呆症状の重畳にさきだって観察されたが,その後は痴呆症状に進行に伴い全般性の脳血流低下となった.頭部CT・MRI所見では,特徴的な淡蒼球,線条体,小脳歯状核における脳内石灰化は経過を通じて変化を認めなかったが,発症3年目の痴呆症状の悪化時には,側頭葉の萎縮の進行,深部白質病変の増加,脳室周囲低吸収域の拡大が観察された.このSPECTの血流低下の全般化,およびMRI上の脳萎縮進行と深部白質病変の増加が,痴呆症状の進行と時間的な一致をみた点が特徴である.
 本症例の深部白質病変については,DNTCでは脳動脈硬化病変を合併しやすいとの報告を支持している所見ではあるが,本症例ではストロークを疑わせるエピソードは認めず,糖尿病や高血圧も認めていない.一方,Alzheimer病脳病変では免疫・炎症反応が最近注目されているが,われわれはDNTC症例において,脳内ミクログリアの活性を指標に炎症所見の存在を証明し報告している.本症例の深部白質病変の存在とその増加は,脳梗塞に由来するものではなく本疾患の炎症所見の進行を反映していると推察している.

2003/06/18


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