第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−46

レビー小体型痴呆の精神症状に関する精神病理学的検討
  

 岐阜大学医学部附属病院神経科精神科
高田知二 藤垣麻衣子 宮崎 渉
田口功哲
 岐阜大学医学部神経・老年学分野
         犬塚 貴
 レビー小体型痴呆は,小阪らが提唱したびまん性レビー小体病をもとに,1996年の国際ワークショップで提唱された概念である.その診断基準によると,進行性認知機能障害以外に構築され具体的な内容の繰り返される幻視体験,系統的な妄想等の精神症状を呈することを特徴とする.これまで,この疾患に関してさまざまな研究がなされてきたが,精神症状に関する精神病理学的研究は多くない.今回,この点に関して検討を行ったので報告する.
 対象は,幻視をはじめとしたさまざまな精神症状のために,当院神経科精神科やもの忘れ外来(精神科医と神経内科医とが共同で開設している)等を受診した自験例10例である.全例,さきの診断基準に基づきレビー小体型痴呆と診断した.その内訳は,男性3例,女性7例,平均年齢75.3(SD:5.89)歳であり,受診時の痴呆の程度はCDR 0.5が4例,CDR 1が3例,CDR 2が3例であった.次に,代表的症例を呈示し,考察を加えたい.


【男性,初診時68歳】67歳にパーキンソン症状を指摘された.その約1年後,夜間トイレから部屋に戻ってくると,「男の子が枕のシーツに顔を突っ込んでいる」と言い,妻を起こすようになった.妻には見えず,どこにいるのか問いただしているうちに消えてしまう.初診時,MMSE 20,HDSR 19,CDR 1.「皆が自分を嘘つきのように言う.自分はこの年まで真面目に働いてきて,嘘なんかついたことはない.自分の名誉がかかっている.自分の目で確かめさせようと妻を起こすのだが,こいつらは自分を馬鹿にする」と涙ながら訴えた.塩酸ドネペジル等の投与を開始し,約2か月で幻視は消失した.患者は,「見えなくなったので,よく寝れる」とは言うものの,以前の体験を否定することはない.
 この患者にとって,幻視の出現は脅威であり,それに対する行動は,嘘を言っていないことを自分の名誉をかけて証明するために妻を執拗に起こすというものであった.本当に見えているとしたら妥当な行動であり,その意味で幻視に対する対応力は保たれているといえる.これは他の症例も同様であった.しかしながら,そういったものが存在しないことを妻らが説得しても,それに応じることはけっしてない.これも他の症例と共通しており,患者は注意を幻視やそれに基づく状況から他に転導できないでいる.しかも,見えているものへ注意を集中させると,それは消失する.これらは,注意の障害を示唆するものである.ちなみに10例中,幻視を夕方から夜間にのみ呈した者4例,夜間に始まり後に昼間も呈した者3例,当初より昼夜ともに呈していた者3例であり,また4例に夜間せん妄の既往があった.幻視が,覚醒度の低下した夜間に多く出現することを鑑みると,そこに何らかの注意や意識の障害が関与している可能性が疑われる.また,全例,経過中に症状の動揺がみられ,幻視等の精神症状の消失とともに認知機能も改善する者も多かった.注意や意識の障害が病態と関係するとすれば,精神症状や認知機能障害の程度がそれに平行して変化することも首肯できる.
 発表では,妄想をはじめとした他の精神症状についても,以上の観点から検討を加えたい.

2003/06/18


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