Parkinson病の経過中にうつ状態が生じやすいことはよく知られており,うつ病とParkinson病との近縁性が示唆されている.われわれは,うつ病の経過中にうつ状態とParkinsonism(P)が並行して増悪・軽快した5症例を報告する.
【症例1】72歳,男性.43歳時に抑うつ気分,精神運動抑制が出現.52歳時から3回目のうつ病相が遷延し,56歳時のうつ状態増悪時に一過性にPが出現.58歳時に当科入院.自殺念慮を伴ううつ状態が認められ,手指振戦,筋強剛,寡動,前傾姿勢,小刻み歩行,構音障害などのPが認められた.CTでは基底核と橋に多発性小梗塞が認められた.入院後,amoxapine,maprotilineの投与により,10か月後にはうつ状態とPがともに改善された.
【症例2】67歳,女性.55歳時に抑うつ気分,精神運動抑制,早朝覚醒が出現.56歳時に他院処方のmianserin,lithium carbonateにより一時改善したが,手指・舌の振戦,筋強剛,動作緩慢,前傾姿勢などのPが出現し,当科初診.MRI上,軽度の大脳萎縮が認められた.うつ状態とPは,clomipramine,mianserin,amantadine,bromocriptineを投与した後も遷延したが,60歳時にうつ状態,Pともに軽快した.
【症例3】65歳,女性.55歳時に抑うつ気分,精神運動抑制,不眠が出現し,当科初診.うつ状態は,clomipramine,amoxapine,amantadineなどの投与後も消長を繰り返し,当科に3回入院.うつ状態の増悪時には手指振戦,筋強剛,小刻み歩行どのPが出現し,抗うつ薬の増量によりうつ状態とPがともに改善される経過を反復した.MRI上,前頭葉を中心に大脳白質内に多発性小梗塞が認められた.
【症例4】73歳,女性.72歳時に抑うつ気分,不眠,食欲不振が出現.他院で処方されたsulpirideにてうつ状態は一時改善したが,73歳時に再燃.同様の処方では改善されず,手指振戦や動作緩慢などのPも出現した.うつ状態とPが遷延し,当科入院.MRI上,軽度の大脳萎縮,基底核周囲の穿通枝梗塞,不全軟化様所見が認められた.少量のmilnacipranを投与したところ,うつ状態とPがともに改善された.
【症例5】79歳,男性.75歳時に抑うつ気分,精神運動抑制,不眠,食欲不振が出現し,当科初診.うつ状態は遷延したが,amoxapine,amantadine投与により改善された.77歳時に手指振戦,筋強剛,無動,歩行障害,構音障害などのPが出現.同時に精神運動抑制,思考抑制,食欲不振も出現し,当科入院.MRI上,中等度の大脳萎縮,橋や基底核などの陳旧性梗塞が認められた.少量のnortriptyline投与によりうつ状態に続いてPも改善された.
【考察】以上の5症例には,@初老期・老年期にうつ病を発症し,経過中にPが出現した,Aうつ状態とPは並行して増悪・軽快した,Bうつ病相が遷延化した,C画像診断上,脳器質的異常が存在した,という共通点がみられた.初老期・老年期のうつ病にPが合併する背景には,うつ病相の遷延化とも関連する脳器質性障害が存在すると考えられた.
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