第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−43

高齢者の高次脳機能障害
  

 東京武蔵野病院 金川英雄
【目的】高齢者の増加と家に引きこもらず社会生活を営む風潮などで,高齢者の高次脳機能障害者が増加傾向にある.従来は頭部打撲後遺症,脳梗塞後遺症や痴呆で,ひとくくりに診断される傾向が強かった.
 当院精神科病棟にも,脳梗塞や頭部打撲で入院する65歳以上の患者が増えてきた.それらを丹念に診察すると,さまざまな認知障害の差異や,若年群と異なる病像パターンがうかがえる.今回60歳以上でダメージを受け,現在65歳以上の入院患者をとりあげ,調査分析した.


【方法】当院の急性期と慢性期に位置する回復期を扱う閉鎖病棟に入院し,演者が直接治療,診察した高次脳機能障害5例をとりあげた.若いときから躁うつ病を発症していたものが1例あるが,残りはダメージを受ける前は健常者群だった.
 CTスキャン,MRIといった検査をしながら,精神科と脳外科,放射線科,理学療法科と協力し,治療,ケア,リハビリテーションを施した.


【結果(03年2月末日現在)】原因としては脳梗塞が2例,頭部打撲2例,頭部打撲後硬膜下血腫の手術をした1例だった.当院は他科を併設する精神科病院なので,依頼されるのは精神症状を併発する高次脳機能障害群(前記最初の4例)と,精神障害者が脳にダメージを受けた場合(後の1例)である.全例失語,失行,失認などのほかに,精神症状が存在した.
 予後は療養型病院に転院したのは1例で,施設に移ったのが1例,自宅に退院したが再入院が2例(1例は当院,1例は他院),現在も入院継続中が1例だった.当院再入院は精神症状の再燃で,他院再入院は地元の病院に,外来通院中転倒し,再び頭部を打撲したためである.


【考察】1)個々人で異なる多彩な症状を示したが,高齢者の場合知的障害も併発した.
 2)高齢者の場合,予後は不良であった.統計学的に比較するほどの数はないが,精神障害者が高次脳機能障害を併発しても,年齢の若いほうが予後は良好であった.若年層は一見予後不良に見えても,ケアと本人の意欲によって改善が期待される.
 3)高次脳機能障害者に精神症状が伴うと,家族が精神的に動揺するケースがあった.精神症状と身体症状の両者を有するものは,医療のいわばすき間で受け皿がむずかしい.他科を併設する精神科施設の潜在的需要は大きいと思われる.
 4)メジャートランキライザーは全例に使用し,投与量の調節が微妙であったが,精神症状に有効であった.
 5)頭部打撲の場合,2方向に強打したほうが予後不良であった.


【結語】さらに症例を積み重ね,詳細に分析したい.

2003/06/18


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