第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−42

パロキセチン開始後せん妄状態を来したCOPDの1症例
  

 木島病院 齋藤朱実 井村 徹 井村良子
 関西医科大学精神神経科 
          加藤正樹 分野正貴
【はじめに】基礎疾患にCOPDがある高齢者で,パロキセチン投与開始後に出現したせん妄状態の一例を経験したので報告する.


【症例】68歳男性
家族歴:精神疾患の遺伝的負因はない
既往歴:32歳肺結核
現病歴:48歳ころより高血圧のため降圧剤の服用を続けていた.58歳で退職後,息苦しさや全身倦怠感のため,内科や耳鼻科を受診し心療内科や精神科を紹介されたが異常なし,と言われている.X年5月,全身倦怠感と息苦しさを訴えて内科で慢性気管支炎を指摘されたころより不眠となり,睡眠導入剤を就眠前に服用していた同年8月よりまったく家から外出しなくなり,9月25日に関西医科大学大附属病院精神科を受診した.「うつ病」と診断されパロキセチン20 mg/日の服用を始めたが不眠が続いた.9月30日には「俺を狙った大量殺人や,死ね,密室殺人や」「通帳がなくなった,盗られた」「死ぬ」と錯乱状態を呈したため,10月1日救急搬送され,サイレース0.5Aとハロペリドール5 mgの静脈内投与を受けたが,口や鼻を押さえる自殺企図があり,同日K病院に紹介され医療保護入院となった.
治療経過:入院時は拒絶的で,焦燥感が強く,多動でよくしゃべる状態とまったく動かない状態とが短時間で交替した.「息切れたときに死ぬ,皆死ぬ,先生も死ぬ」「タンが切れないとすべてがダメになる」「ダメダメ」とおおむね微小妄想,自己否定的な内容の妄想,まとまりのない言動がみられた.血圧も高値,37.5℃の発熱を認めた.レボメプロマジンを主剤として治療を開始した.10月2日覚醒時には希死念慮を否定するようになっていた.焦燥感は軽減,反応も徐々に早くなり,10月7日には入院当時のことを「錯乱していた」と話し,入院前後のことについては健忘を残している.抗生剤経口投与により10月11日より解熱し,精神的にも安定した状態が続き23日退院した.


【考察】この症例では,パロキセチン投与がせん妄出現に関係したと考えた.危険因子として,基礎疾患にCOPDがあり慢性的に低酸素があったと考えられること,高齢,高血圧が考えられる.

2003/06/18


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