第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−40

痴呆の病名告知に関する研究II;病気説明の際の医師の工夫について
  

 聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室
志賀雅代 稙田 忍 新妻加奈子
伊藤幸恵 渡部廣行 森嶋友紀子
松尾素子 田所正典 塚原さち子
川合嘉子 山口 登 青葉安里 
 (社)浴風会高齢者痴呆介護研究・研修東京センター
         小野寺敦志
   長谷川病院 鈴木佳子
 日本社会事業大学  下垣 光
【問題および目的】患者本人が痴呆の病名告知(以下告知)を望む割合(83%)は高く(稙田ら,2002),介護家族も自分が痴呆になった場合には告知を望む割合が高い(今井ら,2001).痴呆の治療場面において,患者側の痴呆告知のニーズは高まってきているといえる.関連演題の研究Iでは,治療提供者である日本老年精神医学会専門医(以下専門医)の多くが告知に対して積極的に取り組んでいることが示唆された.そこで実際の臨床場面でこれらの専門医が告知の際に行っている工夫点を調査し,病気説明の際に専門医が重要視している点を明らかにすることを目的とした.


【方法】調査対象:日本老年精神医学会専門医対象のアンケート調査で返送のあった126名(回収率39%)のうち有効回答93名(回答率27%)から告知を行っていると回答をした79名(85%)を対象とした.質問内容:患者本人に病気の説明をする際の工夫について自由回答形式で質問をした.詳細が記述されていない1名を除いた78名を共同研究者3名でKJ法を用いて分析を行った.


【結果】分析の結果として説明の工夫は以下10通りに分類された.
 (1)治療の必要性を伝える
 (2)老化の一種として伝える
 (3)病名は伝えず病気であることを伝える
 (4)病名は伝えず症状を説明する
 (5)症状を脳の機能にもとづいて伝える
 (6)病名を伝え疾患を分かりやすく説明する
 (7)治療の有効性を伝える
 (8)病名を診断の可能性として伝える
 (9)患者の精神状態を配慮する
 (10)患者個人の状況に合わせる


【考察】結果(3)(4)(6)(8)は病状を説明する方法として病名を用いるか否かの相違はあるが,可能なかぎり正確な情報の提供につとめることで治療態勢を整えようとする姿勢が示唆される.次に結果(1)(7)は病名を用いるか否かはそれぞれ異なるが,直接的に治療を促す姿勢を示していると考えられる.さらに結果(2)(3)(5)は病因を外在化して伝えることで患者の自責感を軽減し,間接的に治療を促す姿勢といえる.
 以上より,告知の定義を“病名と予後を伝えること”と回答した専門医が多数を占めている(研究I)ものの,病気説明の際に病名を用いるか否かについては慎重であることが示された.本研究の結果より専門医は病名を用いるか否かにかかわらず,患者が本人なりに納得して治療に臨み治療を継続すること,さらに告知に際して患者に生じうる不安・抑うつなどのnegativeな反応を抑えること等を重要視していることが示唆された.

2003/06/18


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