第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−39

痴呆の病名告知に関する研究I;医師に対する告知の意識調査から
  

 聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室
稙田 忍 志賀雅代 新妻加奈子
伊藤幸恵 渡部廣行 森嶋友紀子
松尾素子 田所正典 塚原さち子
川合嘉子 山口 登 青葉安里
 (社)浴風会高齢者痴呆介護研究・研修東京センター
         小野寺敦志
   長谷川病院 鈴木佳子
 日本社会事業大学  下垣 光
【目的】軽度痴呆患者の症状は一般的に部分的な短期記憶障害に限定され,理解力・判断力は大きく障害されていないことが多い(宇野,1999).
 当教室での研究でも,彼らの多くはもの忘れを自覚しており自らのもの忘れの原因に対する関心が高かった(伊藤ら,2002).
 実際にもの忘れを主訴とした初診患者を対象に行ったアンケート調査でも約83%の患者が痴呆が疑われた場合でもまず自分に告知してもらうことを希望していた(稙田ら,2002).
 このように告知に対する患者側のニーズが高まるなかで,告知の現状については明らかにされていない面が多い.そこで本研究では医師を対象に痴呆患者に対する告知の現状を明らかにすることを目的とした.


【方法と対象】2002年8月の段階で日本老年精神医学会専門医を取得していた医師327名を対象に,痴呆患者本人への告知に関する意識調査を郵送にて行った.調査内容は1)告知の定義に関するもの,2)患者本人および家族に対する告知の実施の有無とその理由,3)患者本人に説明をする際に工夫点などを中心に構成されたものであった.なお本研究では1)2)について報告する.
 327名中126名からの回答が得られ(回収率39%),そのうち有効回答数は93名(27%)であった.93名の平均年齢は48.1(±9.6)歳,医師経験年数は平均21.8(±9.3)年であった.またその大半が病院に勤務する精神科医であった.


【結果】1)告知の定義についての質問への回答

2)患者本人・家族への告知の実施の有無についての回答

2−1)告知を行っていると回答した医師(79名)のその理由

 さらに,患者本人への告知を行っていると回答した医師が,実際に告知を実施している割合は,全患者に対して平均4.9(±3.9)割であった.
 なお告知が有効に作用したと考えられたケースとしては「治療に協力的になった」「治療に積極的に取り組むようになった」「将来に向けて取り組まれた」等があげられ,有効に生かせなかった例として「抑うつ的になった」「混乱を示した」等があげられた.
2−2)告知を行っていないと回答した医師(14名)のその理由
 患者本人に対する告知の実施と医師の年齢や経験年数との間に有意な関係は見いだされなかった.


【考察】多くの患者(83%)が告知を望む傾向に対して調査対象の医師の多く(85%)が告知を行っており患者のニーズと医療の現状はそう乖離したものではなくなってきていると推測される.ただし,実際に告知を行うのは全患者の約4.9割という事実は,単純に告知をする・しないの問題ではなく,医師が患者それぞれの適否を考慮したうえで実施していることを示していることが考えられる.告知を行う場合では不安や抑うつなどnegativeな影響も懸念されおり,その懸念を少しでも減らす心理的サポートシステムの充実化を考えていく必要があると思われる.

2003/06/18


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