第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−36

痴呆性高齢者に対するドッグセラピーの試み
  

 甲子園大学大学院人間文化学研究科 内苑まどか
 甲子園大学 西村 健
 1990年前後からわが国においても動物介在療法(animal assisted therapy,以下ATT)が試みられるようになり,その後,ATTに関する研究報告が行われるようになってきたが,その数はまだ多くない.そのような状況のなかで,近年,高齢者とくに痴呆性高齢者に対するATTの有用性が注目されている.しかし,その有用性を客観的に評価した研究報告は国内国外ともに乏しい.そこで,われわれは痴呆性高齢者に対するdog therapy(以下DT)の有用性を確認するための系統的な研究にさきだって,予備的検討を行ったので,その結果を報告する.


【対象】特別養護老人ホーム入所中の痴呆性高齢者(男性2名,女性8名,年齢72〜92)


【方法】日本レスキュー協会で訓練を受けたセラピードッグ(以下TD)とドッグセラピストが週一回,老人ホームを訪れ,毎回30分間のDTプログラムを12回施行した.効果の評価には,DT施行前後にN式精神機能検査を施行し,GBSスケールを一部改変した評価尺度を用いて日常行動観察を行い,毎回のDT実施中の行動観察には,その目的で作成した評価尺度を用いた.


【結果と考察】N式精神機能検査では,DT施行前に比し施行後には大多数(10名中7名)に,得点低下が認められた.2名ではかなりの得点上昇がみられたが,情意面での改善に由来する2次的な変化と思われた.日常行動観察では10名中7名に,DT施行後に行動の改善が認められた.DT施行前後の比較では,「覚醒度」「焦燥感」「夜間の睡眠障害」などの項目で有意の改善が認められた.「会話」「集中力」「不安感」などは第4回までの早期に改善を示したのに対し,「覚醒度」「睡眠障害」などの改善は遅れて現れ,DTの効果には早期から現れるものと,回数を重ねて現れるものとがある.
 DT中の行動観察では,「関心」「接触」「プログラム参加」などの項目でのスコアが,とくに第2−4回目で高値であるが,その後は低下する.これは高齢者がDT開始直後の2,3回までは強い興味や関心を示すが,以後はしだいに「慣れ」あるいは「飽き」により,スコアが低下するものと思われる.しかし,それにもかかわらず,TDに対する「注意の持続」が最終回まで保たれていたのは興味がある.


【結語】以上の所見から痴呆性高齢者に対するDTは「覚醒度」「意欲」「集中力」「対人関係」「睡眠」などの改善に有用であり,高齢者のTDに対する「注意の持続」が長く保たれることから,DTのプログラムを工夫して,「慣れ」や「飽き」が生じるのを防ぐことができれば,持続的な効果を得ることができるものと期待できる.本研究は兵庫県社会福祉事業団および日本レスキュー協会の協力のもとに行われたものである.

2003/06/18


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