第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 2−35

100歳の老人病院入院患者に対する集団回想法
  

 青梅慶友病院 小倉啓子 草壁孝治
 慶成会老年学研究所・大正大学   黒川由紀子
     慶成会老年学研究所 宮本典子
       大正大学大学院 坪井芳栄 藤原宏美
【目的】痴呆症患者が大部分を占める老人病院において,100歳前後で心身の機能の障害が比較的軽度な患者がいる.しかし,ひとりで過ごす時間が長く,患者同士で生き生きと交流したり,人生経験を分かち合ったりする機会はなかなかもてないところから,平均年齢100歳前後の患者5名を対象に8回の回想法を行った.


【方法】<参加者>A子97歳(車椅子・補聴器),B子100歳(車椅子・補聴器),C子104歳(多発性脳梗塞・自立歩行),D男99歳(自立歩行),E男99歳(杖歩行・補聴器).<実施>2002年11月〜2003年2月.8回で各1時間.スタッフは臨床心理士3名,レクリエーションワーカー1名,院生2名.テーマ:ふるさと・遊び・学校・結婚・仕事・趣味・旅・自分を支えた言葉.評価はN式老年者用精神状態尺度・発語録・ソシオグラム・PCGスケール・東大式観察評価スケール.


【結果】
<上昇群>B子;関心・交流,見当識で上昇.身辺整理で下降.D男;関心・交流で上昇.<下降群>C子;見当識,身辺整理で下降.E男;身辺整理で下降.

上昇群<A子><E男>心配,寂しさに関連する項目で上昇(軽減).

E男以外は,開始時の得点を維持.

メンバー間,メンバーとスタッフ間の活発な交流や人生の振り返りが展開した.


【考察】評価尺度の結果に有意な変化は得られなかったが,下位項目や発語記録を分析した結果,周囲への関心や交流,会話が活性化し,心配,寂しさ等が軽減したことが示唆された.これは,年齢差が少ない患者同士が,過去の経験を振り返り,明治,大正,昭和という変革と激動の時代のなかで,学業や仕事,家事,育児を精一杯に果たしてきた意義を認め合い,人生をより深く意味づけできたからではないか.また,親や教師から教えられたことを語ったり,自分の価値観や人生観をスタッフに伝えたりすることで,世代間の継承ができたとの思いももてたのではないか.


【結論】同世代のきょうだい,友人,知人のほとんどを喪失した高齢者にとって,同世代との回想法は精神機能の活性化,情動の安定,人生の意義確認を促進するピア・サポートの場になる可能性が示唆された.

2003/06/18


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