第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 2−34

アルツハイマー病患者に対する心理-社会的介入(グループワーク)の試み(第1報);田尻プロジェクト(4)
  

 東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学
橋本竜作 目黒光恵 赤沼恭子
山口 智 石崎淳一 目黒謙一
 介護老人福祉施設かごぼうの里
紺野佳織 鈴木 淳 大石陽子
 岩手県立大学社会福祉学部福祉臨床学科   伊藤 恵
 田尻町スキップセンター   石井 洋
 岩手県立大学社会福祉学部福祉臨床学   野村豊子
【背景と目的】痴呆性高齢者に対する心理-社会的介入の効果として,異常行動の減少,認知機能の維持などが報告されている.われわれも以前AD患者へ心理-社会的介入を行い,良好な結果を得た.しかし,先行研究の多くが痴呆の原因疾患を同定していない,神経心理検査が不十分であるといった問題を含んでいる.そこで今回われわれは対象をアルツハイマー病(AD)患者に絞り,種々の神経心理検査を行い心理-社会的介入の効果について検討したので報告する.


【対象と方法】対象は介護老人福祉施設入居中のAD患者6名(男2名・女4名),平均年齢は84歳(77-94歳),痴呆の重症度は中程度から重度(CDR 2-3)であった.全例に画像診断を施行しNINCDS-ADRDAのprobable ADを満たしている.心理-社会的介入として,日付の確認・歌唱・回想法を組み合わせたグループワーク(以下GW)を実施した.頻度は週一回,期間は3か月間(12回),時間は午後3時より約1時間行った.GWにはケアワーカー・看護師・心理士からなる多職種のスタッフが参加した.GW開始前と終了時に以下の神経心理検査および行動観察を実施した.抑うつ尺度としてGeriatric Depression Scale(GDS),描画法のバウムテスト,前頭葉検査としてTrail Making Test(TMT),語流暢性検査,注意/集中力の指標として数唱,全般的認知機能検査としてCognitive Abilities Screening Instrument(CASI)を実施した.行動観察には高齢者用多次元観察尺度(MOSES)を用いた.


【結果】今回は中程度AD患者の結果のみ報告する.対象者のGWへの参加率は83-100%と高かった.神経心理検査ではGW開始前と比較して以下の結果が得られた.まず,参加者でうつ傾向は軽快し,バウムテストの結果も改善がみられた.TMT,語流暢性検査,数唱では一定の傾向は見いだせなかった.CASIの成績は改善あるいは変化がなく,低下した参加者はいなかった.MOSESは全般的な改善が認められた.また,ケアスタッフからは日常ケア場面での変化も報告された.


【考察】対象者の高い参加率より,GWへの興味や意欲は十分あったと考えられた.心理-社会的介入により,情緒面では抑うつ傾向が軽減され,認知機能の面では個々の認知ドメインへと単純には還元できない全般的な機能の改善・維持が認められた.以上のようにAD患者であっても適切なサポートがあれば,社会的交流の場に参加し,彼らの残存機能を活かすことができると考えられた.今後,対象者を増やして検討していく予定である.

2003/06/18


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