第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 2−33

前頭側頭葉変性症の介護負担についての検討
  

 財団法人総合病院浅香山病院精神科
          繁信和恵
 愛媛大学医学部神経精神医学教室
池田 学 中川賀嗣 田邉敬貴
【はじめに】Pick病を代表とする前頭側頭葉変性症(Fronto-Temporal Lobar Degeneration:FTLD)は,最も処遇の困難な疾患と考えられている.しかし,FTLDの介護負担が他の痴呆性疾患と比較してどのような違いがあるのか,FTLDの介護負担が病期の進行に伴いどのように変化するかを検討した研究はこれまで報告されていない.


【目的】重症度を一致させたFTLD・アルツハイマー型痴呆(AD)・脳血管性痴呆(VaD)の介護負担を比較検討し,FTLDの介護負担の特徴を明らかにする.


【方法】愛媛大学精神科神経科高次脳機能外来ならびに財団新居浜病院シルバー外来を受診したFTLD・AD・VaDの3疾患群を,Clinical Dementia Rating(CDR)に基づき対象を軽度・中等度・重度(CDR 1・2・3)の3群に分類した.CDR 1・2・3の各群において,FTLD・AD・VaDの3疾患の介護負担を日本語版Zarit Caregiver Burden Interview(ZBI)のtotal score,role strain factor score,personal strain factor scoreで比較した.加えて,CDR 1・2の各群において,ZBIのtotal scoreと,全般的な精神症状を評価する日本語版Neuropsychiatric Inventory(NPI)の総得点,FTLDに特徴的な常同行動を評価するStereotypy Rating Inventory(SRI)の総得点の関係を検討した.3疾患の比較にはThe Kruskal-Wallis test and Bonferroni,s multiple comparisonを使用した.ZBIとNPIおよびSRIの関係の検討にはSpearman,s rank correlation coefficientsを使用した.


【結果】全体的な介護負担は,FTLD群では病初期からAD,VaD群に比べ有意に大きかった(p<0.05).中等度の重症度ではFTLD,AD,VaD群の間に有意な差はなかった.AD,VaD群では中等度と重度の間で介護負担に明らかな変化はみられないが,FTLD群では重度でさらに介護負担が増大した.AD,VaDと比較してFTLDの介護負担の大きさは,role strain factorにおいてより顕著であった.FTLDのCDR 1・2の両群ともに,ZBIのtotal scoreはNPIの総得点と強い相関がみられたが,SRIの総得点とは相関関係はみられなかった.


【考察】FTLDでは他の痴呆性疾患に比べ病初期から介護負担が大きく,介護負担を増大させる因子は,FTLDに特徴的な常同行動よりもそれに随伴する精神症状ないし,常同行動以外の脱抑制や興奮といったFTLDに特徴的な精神症状によるものが大きいと考えられた.他の疾患に比べ病初期から介護負担が増大するFTLDでは,早期発見し初期からの介護負担を増大させない介入が重要であると思われた.

2003/06/18


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