第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 2−32

初期痴呆患者に対する心理療法的アプローチの効果について;会員制デイケアの2年半の動向調査及び事例検討
  

 新宿一丁目クリニック・ユリの木クラブ
丸山 香  宮本典子 落合真弓
犬尾英里子 斎藤正彦
【目的】私達は,痴呆症が軽度であったり,物忘れに対する洞察が深く不安が強かったりなどのため,既存のデイケアになじめない,積極的な心理療法的アプローチが望まれる患者を対象に,私費による短時間のデイケアを精神科クリニックに併設し,心理療法的プログラムを中心に提供してきた.介護保険が適用されないデイケアであるが,開設以降多くの患者や家族の参加があった.しかし,参加の継続がむずかしいものも少なくない.そこで,これまでの参加の動向を振り返り,私達が初期痴呆症の患者に提供しているサービスが,個々の患者のニーズに適ったものであるのか,必要な人に,必要な時期に,適切なサービスを継続的に提供するにいは,どのようなプログラムの導入が必要かを検討した.


【方法】(1)過去約2年半にわたる会員制デイケア・ユリの木クラブ(以下クラブ)の参加者全員について,@会の見学のみで終了した者,A無料で参加できる体験入会(開設当初は2週間)まで参加した者,B体験入会期間終了後,会員にならず複数回クラブに参加した者,C会員となり継続して参加している者,D会員となった後脱落した者に分類する.(2)@〜Dの各下位グループの参加者の属性を調査し,各グループ間の差を検討する.(3)上記で得られた差をもとに,提供するサービスは参加者のニーズに適っているか否かを検討する.


【結果】これまで,のべ48名(男性7名,女性41名)の参加があった.初回参加時の年齢は61歳〜89歳,平均76.27歳であった.診断名(重複を含む)は,アルツハイマー型老年痴呆25名,血管性痴呆9名,アルツハイマー病7名,抑うつ状態4名,せん妄2名,パーキンソン病2名,その他(MCI,適応障害,内科疾患等)5名であった.クラブへの参加経路は,併設クリニック33名,他の医療・福祉機関8名,新聞・雑誌など4名,その他(ホームページ等)3名であった.現在の会員数は13名(男性1名,女性12名),平均年齢75.92歳,平均在籍日数13.42か月であった.会員になったが脱落した者は8名(男性1名,女性7名,平均年齢75.75歳)であった.うち4名の脱落は入院・入所が理由であった.


【結果および考察】見学のみにとどまる者が多かった理由には,@入会金等の費用,A送迎の問題があげられた.入院・入所以外が理由で脱落した者については,家族の,患者の病状理解が困難で,客観的視点をもてずにおり,患者の症状に巻き込まれ,送迎が困難になったこと等があげられた.このことは,初期痴呆の心理的ケアには,患者・家族を同時に視野にいれたシステムが不可欠であることを示唆していると考えられた.

2003/06/18


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