第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 2−31

都市に在住する70歳以上の高齢者のソーシャルサポートと抑うつ症状との関連性
  

 東北大学大学院医学系研究科神経科学講座精神神経学分野
小泉弥生 粟田主一 関  徹
          松岡洋夫
東北大学大学院医学系研究科社会医学講座公衆衛生学分野
中谷直樹 栗山進一 大森 芳
          寳澤 篤 辻 一郎
東北大学大学院医学系研究科病態運動学講座運動学分野
藤田和樹 永富良一
東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座老年呼吸器病態学分野
  海老原覚 荒井啓行
【目的】都市在住の高齢者を対象に,ソーシャルサポートと抑うつ症状との関連について性別に検討すること.


【対象と方法】S市T地区在住の70歳以上に対し総合機能評価(CGA)を平成14年7月から8月に行った.対象2,730人のうち1,198人が参加した.研究に関する同意を得た1,179人に聞き取り調査を行った.このうち,ソーシャルサポートに関する質問は,5つの評価項目(村岡ら1996)を用いた.内容は,(1)困ったときの相談相手,(2)体の具合の悪いときの相談相手,(3)日常生活を援助してくれる人,(4)具合の悪いとき病院に連れて行ってくれる人,(5)寝込んだとき身の回りの世話をしてくれる人,の有無である.抑うつ症状の評価はGeriatric Depression Scale(GDS)30項目を用いた.GDSに回答した1,170人(男性485人,女性685人)のうち,Mini Mental State Examination(MMSE)が18点以上の1,146人(男性480人,女性666人)を解析対象とした.統計解析はSASを使用し多重ロジスティック回帰分析を行った.GDS 10点以下を非抑うつ群,11点以上を抑うつ群とした.サポートの欠如と抑うつの有無に関するオッズ比(95%CI)を(1)から(5)の項目についておのおの算出した.その際共変量を,年齢,教育年数,既往疾患数,抗うつ剤服用の有無,配偶者の有無,運動能力評価尺度,MMSE得点,痛みの有無,主観的健康感のレベルとした.P<0.05を有意水準とした.


【結果】抑うつ群は男性130人(27.1%),女性256人(38.4%)であった.質問(1)から(5)までの,おのおののサポートの欠如と抑うつの有無に関するオッズ比(95%CI)は,男性では(1)2.7(1.7-4.5)(2)2.0(1.2-3.5)(3)2.9(1.8-4.7)(4)2.1(1.2-3.5)(5)3.0(1.7-5.3)と全項目で有意にオッズ比が上昇した.女性では(1)1.2(0.8-1.8)(2)1.1(0.8-1.7)(3)1.4(1.0-2.0)(4)1.5(1.0-2.2)(5)1.9(1.3-2.8)と(3)(4)(5)の項目で有意にオッズ比が上昇した.


【考察】男性では全質問項目で,女性では(3)(4)(5)の質問項目で,ソーシャルサポートの欠如と抑うつとの間に有意な関連性が認められた.質問(1)(2)は,相談による支援を,(3)(4)(5)は,身辺介助による支援を問うており,つまり男性では,相談による支援と身辺介助による支援の両方が,女性では,身辺介助による支援が抑うつととくに関連していた.また,すべての項目において女性より男性にオッズ比の上昇が顕著であることから,ソーシャルサポートの欠如がとくに男性で強い影響を及ぼしていることが示唆された.


【結論】都市部の高齢者で,男女ともソーシャルサポートの欠如と抑うつとの間に関連性があった.ただし男性では,関連するソーシャルサポートの種類と関連の強さの両面において影響が顕著であった.

2003/06/18


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