第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

U 1−30

高齢者における過敏性腸症候群及び機能性消化管障害の抑うつ症状とQuality of Life
  

 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野
中谷直樹 藤田和樹 寳澤 篤
小泉弥生 大森 芳 倉嶋佳誉子
         辻 一郎
 東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野
         粟田主一
 東北大学大学院医学系研究科人間行動学分野
         福土 審
【目的】過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome ; IBS)は,腹痛と便通異常を主体とする機能的疾患である.また,機能性消化管障害(Functional Bowel Disorders ; FBD)は,何らかの消化管障害を呈するが,IBSの診断には至らないものをいう.欧米における横断研究において,IBS患者が,高い抑うつ症状および低いQuality of Life(QOL)を示すことを報告している.しかし,高齢者に焦点をあて,IBSおよびFBDと抑うつ症状およびQOLの関連を調査した報告はない.本研究では,日本の一般地域高齢者を対象として,IBSおよびFBDの抑うつ症状とQOLの関連を検討した.


【対象と方法】宮城県仙台市宮城野区鶴ヶ谷地区に居住する70歳から90歳の高齢者2,730名に対し,「寝たきり予防健診」の実施案内を配布した.2002年7月から8月に健診を実施し,1,198名(43.8%)が健診に参加した.調査はインタビューにより行い,IBSおよびFBDのスクリーニング検査(RomeU基準),The Geriatric Depression Scale(GDS),QOL質問票(EuroQoL),生活習慣に関する質問への回答を求めた.解析対象者は,調査研究に同意し,RomeU基準,GDS,EuroQoLの回答に欠損のない1,069名とした.解析対象者をRomeU基準により,正常,FBD,IBSの3群に分類した.3群間の比較は,GDSおよびEuroQoLのスコアを共分散分析および多重比較(Tukey法)にて行った.共変量は,年齢,性,抗うつ薬使用の有無とした.


【結果】GDSスコアは,正常,FBD,IBSの順で高く,3群間に有意な差を認めた(p<0.001).さらに,多重比較により,IBSおよびFBDのGDSスコアは,正常と比較し有意な高値を示した.しかし,FBDとIBSに有意な差は認められなかった.EuroQoLスコアは,正常,FBD,IBDの順で低く,3群間に有意な差を認めた(p<0.001).さらに,多重比較により,IBSおよびFBDのEuroQoLスコアは,正常と比較し有意な低値を示した.しかし,FBDとIBSに有意な差は認められなかった(表1).


【結論】日本の一般地域住人における70歳以上の高齢者において,IBSおよびFBDは,正常に比し,高い抑うつ症状および低いQOLを示した.

2003/06/18


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