第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

I 2−28

痴呆性疾患における視覚性認知−奥行き−機能U
  

札幌医科大学保健医療学部 池田 望 村上新治
 北海学園大学大学院工学研究科電子情報工学専攻
              山ノ井洋
 株式会社情報科学センター 豊島 恒
        ときわ病院 宮澤仁朗
【はじめに】痴呆性疾患により生じる種々の脳機能低下のなかで,視覚認知機能の障害は四肢の運動や日常生活動作における正確性の低下や緩慢性とかかわっているが,その評価,病態機構については不明な点が多い.昨年度の本学会でわれわれは健常者および痴呆患者の奥行き知覚を計測し,痴呆患者に奥行き視認距離が健常者と比較して患者では小さい値を示したことを報告した.
 本研究ではさらに症例数を増やし,同年代の健常者と患者に対して奥行き認知の計測を行うとともに,同時に計測した改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)との関連性を検討した.


【方法】対象は痴呆患者群10人(70.8±13.1歳)および健常者群20人(平均65.9±6.0歳)である.両群の平均年齢に有意差は認められなかった.
 実験装置は,立体視装置として液晶シャッター眼鏡および時分割垂直シンクロナイザー,計測用には,3D刺激提示用兼計測データ記録用PCおよび3次元計測装置をつけたアクリル板を用いた.
 被験者には,液晶眼鏡をかけてもらい,仮想画面上に3D表示される緑色の垂直な長方形が実空間内のアクリル板に張られた垂直な2枚の長方形の間で,同一平面上に並ぶようにアクリル板を移動させるよう教示した.仮想立体視の奥行きに関連する提示視差は20,30ピクセルの2種類を用いた.


【実験結果】提示視差および規準化した奥行き知覚の計測値の2次元データに対して健常者と患者の2群に分け判別分析を試みたところ83.3%の判別率を得た.
 HDS-Rとの関連においては,基準化距離と「場所の見当識」との間に正の相関(p<.05)を,「数字の逆唱」および「野菜の名前の想起」との間に負の相関(それぞれp<.05,p<.01)を示した.


【考察およびまとめ】被験者数を増やした結果においても高い判別率を得ることができ,奥行き知覚の計測の有用性が示された.同時に行ったHDS-Rとの関連においては,「場所の見当識」「数字の逆唱」および言語の流暢性にかかわる「野菜の名前の想起」の下位項目との間に関連性があることが示唆された.


[参考文献]
Murakami, et al.: Advances in Behavioral Biology, 44 (1995).
池田 望ら:第17回日本老年精神医学会プログラム抄録集.(2002).
山ノ井洋ら:第41回日本ME学会大会予稿集.(2002).

2003/06/18


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