第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

I 2−27

豊富な作話を示し,皮質下性血管性痴呆が疑われた一例;田尻プロジェクト(5)
  

東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学
李 恩朱 田中康裕 目黒謙一
山口 智 石崎淳一 橋本竜作
 田尻町スキップセンター    石井 洋
【背景】記憶障害のある痴呆症の場合,妄想と作話の境界がはっきりせず,その内容や表出についての検討がむずかしい.また,皮質下性血管性痴呆の妄想や作話についての報告はあまりなされていない.今回画像所見上著しい白質病変を認め,豊富な作話を示した一例を報告する.


【症例】症例は82歳の女性で右利き,教育歴8年.高血圧,不整脈,歩行障害,尿失禁を認める.15年前ごろから発病し,記憶低下を認めるまえの78歳のときからすでに妄想を主とするBPSDが著明であった(現在Behave-AD-FW 21点).4年間にわたりMMSE点数は5点低下した(17点から12点)が,MRI画像所見上,海馬の変化はほとんど認めなかった.FDG-PET所見では,基底核部の非対称性糖代謝低下がみられるほか,前頭葉・頭頂葉を含む全般的代謝低下がみられた.本症例は痴呆症で一般にみられる物盗られ妄想だけではなく,非現実的な内容の作話と現実的にありうる内容の作話(当座作話)など豊富な妄想と作話を示した.


【作話の分析】そこでModified Confabulation Batteryを用い,本症例の妄想と作話をより詳しく分析した.その結果,質問のない状態(自発作話)においては空想性・妄想性作話が多く,質問のある状態(誘発作話)においては,空想性作話はまったくみられず,そのほとんどが当座作話であった.また,誘発作話においては,意味記憶関連質問より,エピソード記憶関連質問においてより多くの作話が現れた.


【考察】本症例の作話の神経学的基盤として,白質病変による皮質下損傷(frontal-subcortical circuitsの損傷)が考えられた.いわゆる前頭葉機能障害により,reality-monitoringに失敗し,記憶の性質上reality-monitoringの影響を多く受けると考えられるエピソード記憶関連質問においてより多くの作話が現れたと思われる.また,質問のないときは前頭葉機能障害により抑制機能が働かず,意識のなかに浮かんできたものがそのまま現れる一方,質問されるとその質問と関係している記憶が優位に浮上するため,空想作話より当座作話が多くみられると考えられた.

2003/06/18


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