第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

I 2−26

中高齢者の身体活動及び17-OHCSと視空間能力の関係について
  

国際科学振興財団 加藤守匡
 筑波大学体育科学研究科
本山輝幸 西島 壮 齋藤 剛
          征矢英昭
【目的】加齢に伴うさまざまな疾患予防に運動が効果的であることは数多く報告されており,近年では運動の影響について脳神経機能および認知機能の側面からも検討が加えられている.疫学的調査では,身体活動の増加が高齢者の認知機能改善に有効であることを示唆しているがその要因については明確でない.認知機能のひとつである視空間能力は加齢に伴い低下するとされており,その要因としてコルチゾール増大による海馬萎縮が示唆されている.本研究では中高齢者を対象に身体活動およびコルチゾール代謝産物である17-OHCSが視空間能力へ及ぼす影響について検討した.


【方法】被験者は中高齢者56名(男性24名,女性32名)であり,平均年齢は64.8±5.5歳(男性66.2±5.7歳,女性63.7±5.3歳)であった.各被験者のMMSE(Mini-Mental State Examination)は24点以上であり痴呆を有する者は含まれていないと判断された.身体活動は加速度計およびアンケートによる調査から消費カロリーを算出した.17-OHCSは夜間から早朝尿までを採取し同時に測定したクレアチニン値で補正した.視空間能力はコース立方体組み合わせテストにより評価した.


【結果】コース立方体組み合わせテストの成績は年齢および17-OHCS値との間に有意な負の相関関係が認められた.身体活動量は平均1771.8(kcal/day)であり17-OHCS値との間に有意な負の相関関係が認められた.しかし,コース立方体組み合わせテストの成績との間に有意な相関は認められなかった.


【考察】本研究は痴呆を有さない中高齢者を対象に身体活動および17-OHCSが視空間能力へ及ぼす影響について検討した.これまで視空間能力は加齢に伴い低下すると報告されているが,本研究においても年齢との間に有意な負の相関関係が認められた.身体活動について,疫学的調査では身体活動の増加が高齢者の認知機能改善に有効であることを示唆しているが,本研究では身体活動と視空間能力との間には直接的関係は認められなかった.そして,17-OHCS値については身体活動および視空間能力との間に有意な負の相関関係が認められた.以上のことから,加齢に伴う視空間能力の低下予防には,身体活動の増大による17-OHCSの減少を介した作用が貢献していることが示唆された.今後は,抑うつ傾向や体力特性も含め加齢に伴う認知機能について検討していく.

2003/06/18


BACK